マイクロ波レジン重合法による上顎総義歯の変形
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概要
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マイクロ波重合法には, 重合時間が非常に短かく, 操作も簡単で, 高価な器材も不必要であるという利点がある. 精度についても湿熱重合法よりも優れているといわれているが, マイクロ波の照射条件に影響されることも報告されている. そこで, 照射条件が上顎総義歯の変形に与える影響を, 義歯全体の三次元的な変形として捕らえる方法によって検討した. さらに, 重合後の経時的な変形についても調査した. 実験には, 11か所に計測点を刻入した上顎無歯顎形態の金型を用いた. 金型をシリコーンラバー印象材で印象し,超硬質石膏で作業用模型を作製した. 作業用模型上の計測点の三次元座標を計測したのち, 計測点を刻入された人工歯を排列した蝋義歯を作製し, 7か所に設けた人工歯部の計測点の座標を同様にして計測した. 蝋義歯をFRPフラスクに埋没用石膏で埋没, 流蝋し, マイクロ波重合用レジンを填入した. 重合は出力500Wの電子レンジで行った. マイクロ波の照射は, 1)人工歯部側から3分, 2)粘膜面側から3分, 3)人工歯部側から1分30秒後に粘膜面側から1分30秒, 4)粘膜面側から1分30秒後に人工歯部側から1分30秒の4条件で行った.照射後, 30分間室温で放冷後, 30分間水冷した. その後, フラスクから義歯を取り出し,粘膜面および人工歯部の計測点の座標を計測した. 計測後, 義歯を37℃の蒸留水中に保存し, 1, 2, 3, 5, 7, 14および30日後にも計測した. さらに, 各時期の義歯重量を計測した. また, 温熱重合法による義歯も作製し, 同様の計測を行った. なお, 義歯は各重合条件につき5床ずつ作製した. 以上について, 次の結果を得た. 1)マイクロ波重合義歯の人工歯部では, 前後方向の収縮が大きく, 左右の犬歯間や第二小臼歯間の収縮がほとんどなかったために, 変形は大きかった. 一方, 湿熱重合義歯では, 変形は小さかった. 2)マイクロ波重合義歯の粘膜面歯槽頂部の変形は照射条件によって差があった. すなわち, 粘膜面側から3分間照射した義歯では変形は小さく, 人工歯部側から3分間照射した義歯では,前後方向に収縮したために, 変形は大きかった. 湿熱重合義歯では, 前後方向に比べて左右方向, とくに左右上顎結節間が大きく収縮したために, 変形は大きかった. 3)マイクロ波重合した義歯の床縁部の変形も照射条件によって差があった. すなわち, 粘膜面側から3分間照射して重合した義歯では変形は小さく, これに対して, 人工歯部側から3分間照射した義歯では, 犬歯部床縁が変位したために, 変形は大きかった. 湿熱重合義歯では, 犬歯部床縁の変位と上顎結節部床縁の人工歯側への浮き上りのために, 変形は大きかった. 4)いずれの重合法の場合もほとんどの計測点間距離は収縮した. しかし, 重合7日後以降は徐々に収縮は小さくなり, 重合30日後には重合前よりも膨張した計測点間距離もあった. また, 義歯の重量も, 重合1日後にいったん減少するが, その後は重合30日後に至るまで徐々に増加した. 5)以上から, マイクロ波重合義歯は, 従来の湿熱重合義歯に比べて, 人工歯部の変形は大きいが, 粘膜面部の変形は, 照射を粘膜面側から行うことによって小さくできることがわかった.
- 1993-04-25
著者
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