歯の実験的移動におけるTGF-βの局在に関する免疫組織化学的研究
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
矯正歯科臨床において, 歯の移動は歯周組織に悪影響を与えることなく, できる限り短時間に行うべきである. そのためには矯正力をうける骨組織の動態を知ることが重要となる. Transforming growth factor-β(TGF-β)は, 骨に存在するサイトカインの一つであり, 骨形成, 骨吸収に関与し, 骨組織に大量に存在して, 近年骨代謝領域において注目されている. しかし, 歯の移動における歯槽骨内でのTGF-βの局在については明らかではない. そこで, 歯の移動時におけるTGF-βの局在について免疫組織化学的に検索したので報告する. Wistar系雄性ラット45匹を用い, Waldoらの方法にて歯を移動させ, 左側を実験群, 右側を対照群とした, ゴムを上顎左側第一臼歯と第二臼歯の歯間部に挿入後, 6, 12, 18, 24時間, 3, 7, 14日目にラットを麻酔下で屠殺し, 上顎骨を切除して固定, 脱灰したのち, 厚さ6μmのパラフィン切片とした. 抗TGF-β抗体としてヒトリコンビナントTGF-β1ポリクローナル抗体を用い, labelled streptavidin biotin法にて免疫染色を行った. すなわち二次抗体には, biotin標識抗ウサギIgGヤギ血清, ついでperoxidase標識streptavidinを用いて, 3, 3'-diaminobenzidine・H_2O_2溶液にてperoxidase発色を行った. 同時に, HE染色も行った. 対照群, 実験群を通じて, 歯根膜全体にTGF-βの反応が観察された. しかし, 硝子様変性部位ではTGF-βの反応は観察されなかった. また, 歯の移動後12, 18, 24時間, 3日に圧迫側吸収窩の破骨細胞と考えられる多核巨細抱にTGF-βの反応が強く観察された. そして, 歯の移動後12時間では, 牽引側歯槽骨骨縁に, 歯の移動後24時間には牽引側歯槽骨内の血管壁にTGF-βの反応がそれぞれ強く観察された. 歯の移動後3, 7日では, 凹凸状の新生骨の形成が歯槽骨骨縁に沿ってみられ, それにTGF-βの強い反応が認められた. 圧迫側の骨吸収窩の破骨細胞にTGF-βの強い反応が観察され, その一方, 牽引側では, 骨の形成に沿って, TGF-βの強い反応が認められた. 以上のことより, TGF-βは歯の移動による組織改造をその放出される部位によって調節していることが示唆される.
- 1993-04-25