ヌードマウス移植性ヒト偏平上皮癌における細胞動態とIV型コラーゲンおよびE-カドヘリンの局在
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概要
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細胞が互いに接着する性質は組織の構築と機能の維持に必須である. 正常組織では細胞同士が強固に接着しており, 細胞間の接着が失われることはきわめて少ない. 上皮組織においては, Ca^<2+>依存性接着分子のE-カドヘリンの機能発現によって細胞間の接着が保たれ, 組織としての構築と維持が行われている. それに対して, 癌組織にみられる浸潤・転移という行動は異常なもので, それらの行動の最初のステップは, 細胞間接着能を消失あるいは減弱した癌細胞の脱離によって起こる. 一方, 細胞外マトリックスの特殊化によって上皮-間質間に形成される基底膜は, 正常組織でも, 癌組織でも濾過機能を果たしながら組織の発育, 再生および形態維持に関与している. このような背景から,本研究では, IV型コラーゲンを基底膜の指標として, 癌の進展に伴うIV型コラーゲンとE-カドヘリン接着分子の発現変化の関連を明らかにするため, ヒト歯肉偏平上皮癌ヌードマウス移植系(GK-1)を用いて免疫組織化学的な検索を行った. なお, 免疫染色の対照には臨床的健全歯肉を用いた. BrdUに対する標識指数は移植後7週目の癌組織で最も高く, その後経週的な低下を示したので, 癌組織はこの指数を基礎に移植後5週, 7週, 10週および15週の4期に分けて免疫染色を行った. 染色対照の歯肉では, カドヘリンは有棘細胞の全周と基底膜と接する部位を除く基底細胞の周囲に強く発現し, IV型コラーゲンは上皮-間質間と血管壁に連続性を保って強く発現した. GK-1においては, カドヘリンは移植後5週目で癌細胞周囲に強く発現し, その強度は胞巣外に浸潤している細胞よりも胞巣内の細胞で強かった. S期の細胞画分が最も多い移植後7週目の癌組織では, カドヘリンの発現は著しく低下し, なかには発現を消失している細胞もみられた. 移植後10週目になると, カドヘリンは移植後5週目の癌組織よりも多くの細胞で強く発現するようになり, 15週目ではその傾向がさらに著明になった. しかし, 10および15週目の癌組織においても, カドヘリンは個々の細胞で不安定な発現を示した. 一方, GK-1におけるIV型コラーゲンは胞巣の基底膜と血管壁に発現したが, 基底膜における発現はカドヘリンの活性低下に対応して弱くなり, かつ不連続性を増すようになった. カドヘリンの活性が増大するとそれに対応してIV型コラーゲンの発現は強くなり, 不連続性を示す部分も少なくなった. 以上の結果から,癌細胞間の接着活性の減弱を示すE-カドヘリン発現の低下と宿主細胞に由来する基底膜の破壊を示すIV型コラーゲンの不連続的な発現は, 癌細胞の浸潤増殖や転移と密接に関与している所見と考えられる.
- 大阪歯科学会の論文
- 1993-04-25
大阪歯科学会 | 論文
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