サル口蓋粘膜の固有層と粘膜下組織におけるグリコサミノグリカンの化学組成
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
口蓋粘膜の表層は重層扁平上皮で, その下層には厚い結合組織が存在する. この結合組織層は固有層と粘膜下組織の二層に分けられ, 粘膜下組織はさらに脂肪帯部と腺帯部に区分することができる. しかしながら, 口蓋粘膜結合組織を各層別に生化学的に分析した報告はない. そこで, 結合組織基質の主要成分であるプロテオグリカン構成主鎖のグリコサミノグリカン (GAG) に着目し, 口蓋粘膜各層別にその化学組成について検索した. 3〜5歳の雌性カニクイザル (Macaca fascicularis) 6頭から口蓋粘膜を剥離し, 実体顕微鏡下で, 固有層, 粘膜下組織脂肪帯部 (脂肪帯部) および粘膜下組織腺帯部 (腺帯部) に区分して分析試料とした. なお, 対照として歯肉結合組織を用いた. そして, これらの脱脂乾燥試料から常法に従ってGAGを抽出し, 構成糖の化学分析を行った. また, 一部組織を用いてヒドロキシプロリン量を測定した. GAG分子種の同定, 定量には, セルロースアセテート膜電気泳動法と特異的分解酵素による消化法を併用し, さらに, コンドロイチン硫酸異性体検索のために, コンドロイチナーゼAC消化で生成した不飽和二糖異性体をHPLCで分離定量した. GAGの分子量分布の検討は, Sephadex G-100カラムクロマトグラフィーによった. その結果, 乾燥重量当たりのウロン酸量で表したGAG量が, 最も高い値を示したのは固有層であり, 次いで腺帯部, 脂肪帯部, 歯肉の順であった. 腺帯部および固有物にはヘキソサミンとヘキソースが多量に存在し, グルコサミン/ガラクトサミン比も腺帯部および固有層で大きな値を示した. 口蓋粘膜各部位および歯肉結合組織のGAG分子種はいずれも共通で, ヒアルロン酸, デルマタン硫酸, コンドロイチン硫酸およびヘパラン硫酸の4種のGAGから構成されていた. しかし, 各部位のGAG構成比率はそれぞれ異なり, 固有層と歯肉ではデルマタン硫酸が最も多く, 次いでヒアルロン酸, コンドロイチン硫酸, ヘパラン硫酸の順であり, 腺帯部ではデルマタン硫酸, ヒアルロン酸, ヘパラン硫酸, コンドロイチン硫酸の順であった. また, 脂肪帯部ではヒアルロン酸が最も多く, 次いでデルマタン硫酸, コンドロイチン硫酸とヘパラン硫酸の順であった. ところで, 最近の研究からコンドロイチン硫酸が石灰化の過程や細胞機能の調節に重要な役割を果たすことが注目され, コンドロイチン硫酸機能の多様性は, その糖鎖にあるハイブリッド構造によることが明らかになってきた. そこで, 口蓋粘膜各部位と歯肉のコンドロイチン硫酸由来不飽和二糖をHPLCで検討したところ, 口蓋粘膜および歯肉のコンドロイチン硫酸由来不飽和二糖はΔDi-0S, ΔDi-4S, ΔDi-6Sで構成されていた. そして, 口蓋粘膜各部位の主要構成二糖はΔDi-6Sであったが, その構成比率は各部位でやや異なっていた. また, 歯肉の主要構成二糖はΔDi-4Sであった. さらに, 口蓋粘膜には未同定のアルシアンブルー陽性物質が認められたので, GAG試料をSephadex G-100カラムクロマトグラフィーで検索した結果, その物質はヒアルロン酸と同程度の高分子物質であることが明らかとなった. 以上の結果が示すように, 口蓋粘膜結合組織に含まれるGAG組成は固有層, 脂肪帯部ならびに腺帯部によってそれぞれ異なり, その質的および量的な差は各部位の組織機能を反映するものであると考える.
- 大阪歯科学会の論文
- 1992-08-25