唾液と歯垢における病原酵素および粘性物質産生菌の分布
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概要
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ほとんどの口腔感染症が, 口腔常在細菌による内因感染症であることは周知の事実である. これまで比較的病原性の強い口腔感染症としては顎顔面に小膿瘍を形成するActinomyces israeliiを主体とする放線菌症が知られているにすぎなかった. しかし, 歯周病原細菌として脚光を浴びているPorphyromonas gingivalis (以下, P. gingivalisと略す) は種々のタンパク分解酵素を産生し, 実験動物に単独で浸潤性の膿瘍形成能をもっている. 他にも, Treponema denticola, Bacteroides forsythus, Capnocytophaga種もtrypsin様活性を示すことが明らかにされている. しかし, in vivoでのこれらの細菌の病原的役割についてはほとんど知られていない. 最近, 多々見は蜂巣炎の症例から分離した細菌のβ-lactamase, DNase, lecithinase, hyaluronidase, chondroitin sulfatase, trypsin, collagenase, lipase, chymotrypsinおよびplasmin活性を検索した結果, すべての症例で4〜8種の酵素が産生され, 酵素産生菌の比率も高いことを明らかにしている. 本研究では, 感染根管から蜂巣炎までの症例の感染源として健康なヒ卜の唾液と歯垢から分離した細菌の, 病原性状に関連した酵素活性や粘性物質産生性を検討した. 9名の健康な学生を志願者とし, 唾液および歯垢を嫌気条件下でreduced transport fluidに入れ, Anaerobox内で希釈し, CDC処方の嫌気性菌用血液寒天培地に塗抹し, 分離培養した. 分離したすべての菌株についてβ-lactamase, DNase, lecithinase, hyaluronidase, chondroitin sulfatase, trypsin, collagenase, lipase, chymotrypsin活性および粘性物質産生性を検索した. 酵素および粘性物質産生菌の同定は, Bergey's manual of systematic bacteriologyを参考にして行った. 一部のblack-pigmented Prevotella (BPP) およびCapnocytophagaはDNA-DNA hybridization法で同定した. 得られた結果は, 以下のとおりである. 本実験に供試した菌株数は2,826株でそのうち, 唾液由来は1,351株, 歯垢由来は1,475株であった. 酵素産生のなかではβ-lactamaseとDNase産生菌がもっとも多く, 分布比率の平均はともに4.1%であった. その他の酵素産生菌はすべて2%以下であり, chymotrypsin産生菌はいずれの症例からも検出されなかった. 同定結果から, β-lactamase, DNase, lecithinase, hyaluronidaseおよびchondroitin sulfatase産生菌のなかではPrevotellaが優位を占めた. Trypsin産生菌としては, Capnocytophaga gingivalisとPorphyromonas gingivalisが, collagenase産生菌としては, Porphyromonas gingivalisのみが分離された. 本実験の結果から, 健常人の唾液および歯垢中にも蜂巣炎の症例と比較すると低い比率ではあるが, 病原性に関連する酵素を産生する菌株が認められ, その主体はBPPを中心とするPrevotellaであった. したがって, 根尖病巣の感染源である唾液や歯垢は, 根尖病巣の増悪化に関与するポテンシャルを有すると考えられる.
- 大阪歯科学会の論文
- 1992-08-25