根尖病変の成立と根管内抗原に対する免疫反応
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概要
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今日までの種々の研究における慢性根尖病変内での免疫担当細胞の証明や根管内に填入した抗原に対する特異抗体の産生などから, 根尖病変の成立と免疫反応との間には関連性のあることが示唆されている. しかし, その詳細については明らかにされていない. そこで, 根尖病変の成立と根管内抗原との関連を明らかにする目的で, 根管内に抗原を填入し, 根尖部に成立した病変を病理組織学的に, さらに, 領域リンパ節細胞の幼若化および抗体産生を免疫学的に検討した. 実験材料および方法 実験には6週齢の雄性SD系ラット133匹を用いた. そのうちの120匹は下顎左右側第一臼歯を抜髄し, #30のファイルまで根管拡大形成を行い, 6群 (各20匹) に分けた. 各群については次のように根管処理を行った. すなわち, 第1群 : keyhole limpet hemocyanin (KLH) とFreund's complete adjuvant (FCA) とのemulsionを填入, 第2群 : KLHを結合した直径1μmのlatex beadを填入, 第3群 : KLHを結合した直径6μmのlatex beadを填入, 第4群 : 直径1μmのlatex beadを填入, 第5群 : 直径6μmのlatex beadを填入, 第6群 : 根管形成後, 髄室を開放, とした. なお, 実験期間は1, 2, 3および4週とし, 屠殺1時間前に第6群を除く各群の半数のラット腹腔内にbromo-deoxyuridine (BrdU) を投与した. 各ラットは採血後, 屠殺し, 下顎骨を摘出した. これらの下顎骨は, 通法により, 脱灰後パラフィン切片とし, hematoxylin・eosin染色あるいはmonoclonal抗体を用いた免疫組織化学的染色を施した. 残りの13匹のラットには根管処置を施さず, そのうちの9匹には下顎臼歯部歯肉に, 他の4匹には尾根部皮下にKLHをFCAとともに接種した. 根管あるいは歯肉からKLHを投与したラットについては抗原特異的な顎下リンパ節細胞の幼若化, 抗体産生, さらに, IL-1活性を検索した. 結果および考察 1. 根管に抗原を填入した群では顎下リンパ節細胞の幼若化を認めなかったが, 歯肉に抗原を接種した群では幼若化が発現した. 幼若化には抗原量および抗原と組織の接触面積の大小が影響するものと考えられた. なお, IL-1活性は認められなかった. 2. 抗原を根管に填入すると血中で特異抗体が産生されたが, 病変局所に抗体産生細胞は存在しなかった. 3. 第1群では根尖部に肉芽腫様病変が成立し, 第2群では根尖周囲に膿瘍が形成されたあと肉芽腫様病変となり, 長く存続した. また, 第3群でも肉芽腫様病変が成立し, 第1群に類似した経過をたどった. これらの結果は, 肉芽腫の存続に抗原が関与したものと考えられた. 4. 第4群では根尖周囲に膿瘍が成立したのち, 早期に線維化を生じた. また, 第5群では肉芽腫様の病変が成立し, 早期に線維化する傾向を認めた. このような結果も, 肉芽腫の成立と存続に抗原が影響する可能性を示唆していた. 5. 第6群では歯槽骨辺縁に多核巨細胞の存在を特徴とする根尖膿瘍が形成された. この膿瘍は経週的に縮小するとともに線維化して行き, 肉芽腫様の病変は成立しなかった. 結論 今回の実験の結果, 不溶性の粒子状抗原に対する非特異的防御機転として根尖部に異物型肉芽腫が形成されるが, 細胞性免疫応答の成立する可能性は少ない. 一方, 血中に抗体が産生されたことから, 第3型アレルギーによる組織障害を生じて根尖病変が成立する可能性は否定できない.
- 大阪歯科学会の論文
- 1992-04-25
著者
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