エナメル上皮腫の骨吸収能について
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概要
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エナメル上皮腫の増殖に伴って骨吸収がみられるが, 本腫瘍の骨吸収機序についての研究はほとんどみられない. 本腫瘍が増殖する際の骨吸収機構として, 腫瘍細胞自身が骨吸収を行っている場合, 腫瘍の代謝産物中に骨吸収促進因子を含んでいる場合, そして腫瘍の代謝産物が末梢血液細胞に作用して破骨細胞を誘導, 分化するとともに破骨細胞の骨吸収活性を高めている場合などさまざまな可能性が考えられる. このエナメル上皮腫の骨吸収機構を研究することは本腫瘍の治療方針を確立するうえで重要な因子と考えられる. そこで著者は, 1990年から1991年までの2年間に大阪歯科大学附属病院口腔外科を受診しエナメル上皮腫と診断され, 初代培養に成功した4例を用い, エナメル上皮腫の骨吸収能を検索した. 実験方法 骨吸収試験はマウス頭頂骨器官培養法を用い, 腫瘍ホモジネート液, 腫瘍培養上清, およびこの両者それぞれで刺激したヒト末梢白血球の培養上清をこの培養系に10%の濃度で添加し, 4日後の培養上清中のカルシウム濃度を測定した. 破骨細胞様多核巨細胞形成試験はマウス骨髄培養法を用い, 腫瘍ホモジネート液, 腫瘍培養上清, およびこの両者それぞれで刺激したヒト末梢白血球の培養上清をこの培養系に10%の濃度で添加し, 8日間培養後に形成される酒石酸耐性酸ホスファターゼ陽性多核巨細胞の数を計測した. 培養上清の遊走活性はメンブレンフィルター法を用い, マウス腹腔マクロファージの遊走数を計測した. 実験結果 1. 骨吸収促進作用 各症例の腫瘍ホモジネート液および腫瘍ホモジネート液で刺激したリンパ球および単球の培養上清に骨吸収促進作用は認められなかったが, 腫瘍培養上清および腫瘍培養上清で刺激したリンパ球および単球の培養上清に骨吸収促進作用が認められ, この骨吸収促進作用はインドメタシン添加により抑制された. 2. 破骨細胞様多核巨細胞形成能 組織型が他3例と異なる1例の腫瘍ホモジネート液に中等度の破骨細胞様多核巨細胞形成能が認められ, 各症例の腫瘍ホモジネート液で刺激したリンパ球および単球の培養上清に弱い破骨細胞様多核巨細胞形成能が認められた. 各症例の腫瘍培養上清および腫瘍培養上清で刺激したリンパ球および単球の培養上清には中等度の破骨細胞様多核巨細胞形成能が認められた. 3. 腫瘍培養上清の腹腔マクロファージ遊走活性 全症例の腫瘍培養上清に弱い遊走活性が認められ, そのうち1例に濃度依存性の遊走活性が認められた. 以上の結果より, エナメル上皮腫に随伴する骨吸収は圧迫性の骨吸収だけでなく, 腫瘍が発育する過程の代謝産物中に存在する物質が破骨細胞を活性化, もしくは前破骨細胞の分化を促進させることが判明した. また, 組織型の差異が吸収動態に反映している可能性が示唆された.
- 1992-04-25