顎下腺の唾液分泌におけるsubstance Pの役割について
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概要
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Substance Pを血中に投与したときには, 強い唾液分泌作用が現われること, また唾液腺細胞にはsubstance Pに結合するreceptorが存在することが知られている. しかし, 唾液分泌においてsubstance Pがどのように機能しているかは, 具体的には明らかにされていない. そこで, ラットの顎下腺を対象として, 腺房部細胞における水の分泌および顆粒管細胞における脱顆粒現象に対するsubstance Pの役割について検討した. 得られた結果は, 以下のとおりである. 唾液分泌速度は, 鼓索神経 (副交感神経) 電気刺激の刺激頻度が大きくなると増大し, 20Hzで最大となった. また, cholinergic muscarinic receptor antagonistのatropineを前処置 (5mg/kg) すると, 0.5〜60Hzの電気刺激によって起こる唾液分泌を著しく抑制したが, 完全に停止させることはできなかった. さらに鼓索神経を持続的に電気刺激すると, atropine抵抗性のこの唾液分泌反応は5分以内に刺激直後の40%以下に急激に低下した. Substance Pのantagonistである[D-Arg^1, D-Pro^2, D-Trp^<7, 9>, Leu^<11>]-substance P (1mg/kg) を投与すると, 鼓索神経電気刺激の刺激頻度が20Hz以上のときには唾液分泌を抑制したが10Hz以下のときには効果を認めなかった. また, 腺組織内のsubstance P量は, 鼓索神経を持続的に長時間, 20Hzで刺激すると, 時間の経過とともに減少し, 刺激後1時間で対照の約50%となり, substance Pは腺内のsubstance P含有神経線維から消失していることが電顕免疫組織化学的にも確認できた. 腺組織内のsubstance Pを電気刺激によって減少させたのちに, substance Pを動脈を介して投与すると, 鼓索神経刺激に対する唾液分泌が回復した. なお, 上頚神経節 (交感神経) の電気刺激による唾液分泌は, atropineおよびsubstance Pのantagonistによって影響を受けなかった. また, 腺組織内のsubstance P量は上頚神経節の電気刺激によって減少しなかった. 顆粒管細胞における分泌顆粒は, 鼓索神経電気刺激およびsubstance Pの投与によって脱顆粒しなかった. 以上のことから, substance Pには, acetylcholineとともに神経伝達物質として機能して, とくに唾液分泌の初期に唾液分泌量を急激に増加させる働きがあると考えられる.
- 大阪歯科学会の論文
- 1991-08-25