サル頭蓋の咬合力緩衝機構における咬合物質の大きさの影響について
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概要
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成熟期および幼年期のサル頭蓋およびそれを構成する両側の下顎骨臼歯部骨体部, 上顎骨臼歯部骨体部, 頬骨弓前部, 頬骨弓後部, 側頭骨鱗部, 頭頂骨中央部および側頭骨顎関節周辺部における咬合時の力学的反応を, ストレインゲージ法を用いて測定し, 咬合物質の大きさに起因する咬合力緩衝作用の特徴, 成熟期頭蓋と幼年期頭蓋との咬合力緩衝機構の相違ならびに咬合力と頭蓋の成長および発育との関係について検討した. 頭蓋全体に生ずる主ひずみ量は, 成熟期頭蓋では咬合物質の大きさが大きくなるにつれて増大し, とくに咬合力が最も大きい7mmの大きさにおいて最大となった. これに対して, 幼年期頭蓋では咬合力が最も大きい3mmにおいて最大で, 5mmおよび7mmでは対照 (咬合物質の大きさ : 0mm) よりも減少した. 以上の現象は, 未成熟な幼年期頭蓋では咬合物質の大きさに咬合あるいは咀嚼運動が適応できず, 咬合力が小さくなり, その結果主ひずみ量は小さくなるのに対して, 成熟期頭蓋においては咬合物質の大きさに対する顎運動の適応作用が生理的になることによる. 作業側の主ひずみ量 (作業側, すなわち咬合側の頭蓋に生ずる主ひずみ量の総和) は, 咬合物質が大きくなるにつれて成熟期頭蓋では増大するが, 幼年期頭蓋では減少する, それに対して, 平衡側 (非咬合側) においては, 成熟期頭蓋ではどの大きさの咬合物質においても対照よりも小さいが, 幼年期頭蓋では対照に比べて咬合物質の大きさが3mmのときには著しく, また5mmのときにはわずかに増大するが, 7mmのときには逆に減少する. なお, 作業側の主ひずみ量は, 成熟期頭蓋でも幼年期頭蓋でも, またどの大きさの咬合物質においても, 平衡側よりも大きい. 以上のとおり, 主ひずみ量の大きさは咬合物質の大きさに応じて増大したり, また減少したりするが, それは頭蓋を構成する各骨によって異なる. 各構成骨の主ひずみ量が対照よりも増大したとき, 主ひずみの方向が対照と変わらなければその部位には応力が集中しているし, その方向が変わればその部位の応力は分散している. 咬合物質を大きくすると前者の現象が認められる骨は, 成熟期頭蓋では作業側の下顎骨, 頬骨弓前部, 頬骨弓後部および側頭骨ならびに平衡側の上顎骨, 頬骨弓前部および側頭骨であり, 幼年期頭蓋では作業側の頬骨弓前部および頭頂骨ならびに平衡側の上顎骨および下顎骨である. このように, 応力の集中する骨の種類は成熟期のほうが多い. 咬合物質の大きさと成熟期および幼年期の両頭蓋の各構成骨の咬合力緩衝作用に著明な相違は頬骨弓後部, 側頭骨および頭頂骨で認められた. 頬骨弓後部は, 成熟期では作業側でも平衡側でも咬合物質が大きくなっても咬合力を十分に分散することができるが, 幼年期ではこの機能が十分に発揮されない. 成熟期の側頭骨は咬合物質が大きいときには作業側に, 小さいときには平衡側に応力が集中するが, 幼年期の側頭骨ではこの現象は認められない. また, 頭頂骨においては, 幼年期では作業側に応力が集中することがあるが, 成熟期では集中しない. 以上の現象は, 成熟期頭蓋では頭蓋の各構成骨がその位置および形状に基づいて, それぞれ独自に咬合力を緩衝しているのに対して, 幼年期頭蓋では各構成骨は単独では十分に緩衝することができないから, 頭蓋を構成するすべての骨が一体となって緩衝していることによる. 咬合時に生ずる主ひずみの伸展ひずみの方向は, 頭蓋を構成する各骨が成長し, 発育する方向を決定していることを確認した.
- 大阪歯科学会の論文
- 1991-08-25
著者
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