根尖部根管ならびに根管内死腔に侵入した肉芽組織の動態
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概要
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根管内に死腔が存在した場合, 死腔が根尖歯周組織に対して為害的に作用するとされている. しかし, 根管内死腔に侵入した肉芽組織が, 根尖歯周組織に対してどのような影響をおよぼすのかということに関しての詳細は不明である. そこで, 根尖部根管ならびに根管内死腔に侵入した肉芽組織の動態を検索する目的で, 根管模型埋入実験を行い, 根管内に侵入した肉芽組織について, 病理組織学的観察を行うとともに, 肉芽組織内に認められた^3H-thymidineによる標識細胞数を測定し, 細胞増殖活性の変化に関する観察を行った. 実験には, 主根管 (内径1mm) および長さ1, 2, 3mmのいずれかの根尖部根管 (内径0.3mm) を有する長さ10mm, 外径3mmの象牙製根管模型を使用した. これらの根管模型に対して, 根尖部根管を除く主根管を完全に充塞するように, あるいは主根管に長さ1, 2, 3mmのいずれかの死腔を付与するように根管充填を行った. 根管充填には, ガッタパーチャポイントと酸化亜鉛ユージノール系シーラーのキャナルスを使用した. 根管充填を行った模型は, 雄性SD系ラットの背部皮下組織に, 2, 4, 8, 12週間埋入した. 実験動物屠殺1時間前に, 静脈内注射により, 各ラットに1μCi/g体重の^3H-thymidineを投与した. 屠殺後, 根管模型は周囲組織とともに摘出し, 通法によりパラフィン切片とした. 切片にはオートラジオグラフィー用乳剤を塗布し, 4週間露出後に現像・定着処理を行い, H-Eにて後染色を行った. 各標本について, 病理組織学的観察および根管内肉芽組織に認められた^3H-thymidineによる標識細胞数の測定を行った. 得られた結果は以下のとおりである. 1. 根管模型埋入後, 全ての根尖部根管に肉芽組織の侵入が認められた. さらに, 埋入後2週ないし4週で1mmの根尖部根管が肉芽組織で完全に充塞され, 同じく2mmの根尖部根管は4週で, 3mmの根尖部根管は4週ないし8週で肉芽組織によって充塞された. 2. 死腔を付与しない実験群では, 肉芽組織が根尖部根管を完全に充塞した際に, 根管充填材と接する肉芽組織の先端部に壊死傾向が認められ, 同時に根管内肉芽組織の細胞増殖活性が低下した. しかし, 一部組織の壊死傾向に生体が対応するかのように, その後, 再度細胞増殖活性が上昇した. 肉芽組織が根尖部根管を充塞後の術後12週において, 1mmの根尖部根管内の肉芽組織に壊死傾向はほとんど認められなかった. しかし, 2mmおよび3mmの根尖部根管内の肉芽組織は変性壊死傾向を示した. 3. 死腔を付与した実験群では, 根尖部根管を肉芽組織が充塞した際に細胞増殖活性の低下は認められず, 比較的連続した肉芽組織の増殖傾向が観察された. 1mmおよび2mmの根尖部根管内の肉芽組織は, 根尖部根管を充塞後, 死腔内に侵入増殖し, 埋入後12週でも根尖部根管内の肉芽組織は細胞増殖活性を維持し, さらに死腔内への肉芽組織増殖傾向を示唆した. これに対して, 3mmの根尖部根管内の肉芽組織は, 埋入後12週でも死腔内への侵入増殖は観察されず, 同時に肉芽組織先端部に細胞増殖活性はほとんど認められなかった. したがって, これ以後の死腔内への肉芽組織の侵入増殖は認め得ないと推察された. 以上の結果, 臨床的にみて, 根尖部に残留する未処置の根管が1mm以内の場合は, 根管内死腔の有無とは無関係に, 根管内に侵入する肉芽組織は生活力を保持し, 根尖歯周組織に対して影響をおよぼす可能性は非常に少ないが, 2mm以上の未処置の根管が根尖部に残留すると, 根管内に侵入する肉芽組織は変性壊死を呈し, 根尖歯周組織に病変を成立させる可能性が高いことが本実験から示唆された.
- 1991-08-25