ラット根尖病変の治癒過程における水酸化カルシウムの影響
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概要
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水酸化カルシウムは直接覆髄法や生活歯髄切断法において, 硬組織形成の促進を目的として広く臨床に応用されている. また, 抜髄根管に水酸化カルシウム製剤を応用した場合, 根尖部に新生硬組織の形成が促進されるとの報告が数多く認められる. しかし, 根尖病変を有する歯では, 抜髄例のように比較的健康な組織が根尖孔付近に認められず, 主として, 肉芽組織あるいは膿瘍の形成が認められる. このような環境下にある根尖周囲組織への水酸化カルシウムの応用は, とくに硬組織形成に関して, 抜髄例とは当然異なった影響がでるものと考えられる. そこで, 今回, 実験的に根尖病変を成立させたラット臼歯の根管内に水酸化カルシウムを応用し, 根尖部の硬組織形成と根尖病変の推移とを検索する目的で, 酵素組織化学的および病理組織学的検索を行った. 材料と方法 体重150gの雄性Wistar系ラット下顎左右側第一臼歯の髄室を開放, 放置して, 根尖病変を成立させた. 根管の拡大, 清掃および乾燥後, 水酸化カルシウムに25%の割合で酸化ビスマスを添加したものを生理食塩水で練和し, 根管内に充塞した. 髄室は, グラスアイオノマーセメントにて封鎖し, これを実験群とした. また, 根尖病変成立後, 根管の拡大・清掃を行い髄室を封鎖したのみのものを対照群とした. 実験期間は, 1週, 2週, 4週, 6週および10週とした. 各実験期間飼育後, 下顎骨を摘出し, 4℃ 0.5M EDTA-4Na溶液にて脱灰を行い, -20℃のクリオスタット内で20μmの連続凍結切片を作製した. 今回証明した酵素は, non-specific Alkaline phosphatase, non-specific Acid phosphatase, Aminopeptidase, Succinate dehydrogenase, Lactate dehydrogenase, Malate dehydrogenaseの6種類である. さらに, H-E染色による病理組織学的検索と同時に, PAS反応も行った. 結果および結論 1. エックス線写真所見および病理組織学的所見において, 根管内の水酸化カルシウムは経週的に吸収が進む傾向を示した. 組織化学的検索においても, 根管充填剤の吸収が示唆されるように, 実験群ではACPおよびPAS反応に強陽性反応を示すマクロファージが多数認められた. 2. 根尖周囲組織の状態については, 実験群で, 6週以上経過例においても根尖部に膿瘍が存在し, その周囲の肉芽組織では強いAmino.活性が認められた. しかし, 対照群では経週的に病変の縮小傾向と根尖周囲の肉芽組織の線維化が進み, 強いPAS陽性反応が認められた. 3. セメント質の新生は, 対照群で, 根尖病変を取り囲むように認められたが, 実験群では, 10週経過例においてもわずかに認められるのみであった. また, 新生セメント質表層での酵素活性は, 対照群においてALPおよびLDHに強い活性が認められたが, 実験群では対照群に比べて相対的に弱い反応を示した. 4. 根尖周囲組織内に形成された硬組織様構造物については, 実験群で2週以上経過例に, 根管充填剤に近接して新生セメント質とは異なる硬組織の形成が認められ, 一部膿瘍に取り囲まれていた. この硬組織様構造物の表層部にはALP以外の酵素群に陽性反応が認められた. しかし, 10週を経過してもこの構造物の増大は認められなかった. 以上のことから, 根尖部に大きな膿瘍が存在する状態で水酸化カルシウムを応用した場合には, 根尖部病変の治癒が遅延することが明らかになった. したがって, 感染根管に水酸化カルシウムを応用する場合には, 根管清掃や根管消毒によって, 根尖周囲組織の炎症性反応を消退させたのちに使用すべきであると考えられる.
- 大阪歯科学会の論文
- 1991-08-25