咀嚼閉口相終末を想定した実験的側方力発現に関する筋電図学的研究
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概要
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予備実験として著者は, 被験者をgrinding strokeとchopping strokeとに分け, ガム咀嚼時の内側翼突筋の筋活動時期を主に咬筋と比較した. その結果, grinding strokeにおいて作業側内側翼突筋のburst offsetが咬筋よりも有意に遅れ, 咬筋とは異なった独自の筋活動パターンを観察した. そして, この筋活動を咀嚼閉口相終末における側方力発現に関与するものと推察した. そこで本実験では口腔内実験シーネを用いて咀嚼閉口相終末に近い状態を再現し, 側方荷重量と内側翼突筋の筋活動量との関係を定量的に分析し, 咀嚼閉口相終末における側方力発現のメカニズムの筋電図学的解明を目的とした. 被験者は, 顎機能に異常を認めない年齢24〜26歳の正常有歯顎者男子5名である. 下顎シーネに垂直力および水平力測定用ロードセルを設定し, 上顎シーネには下顎の両ロードセルに同時に接触するようなレジン製ブロックの加圧部を設置した. 等尺性荷重方向は, 垂直方向の咬みしめと側方偏心位から中心咬合位に向かう側方引きつけ運動である. 被験顎位は, 習慣性閉口位 (P-0) と, 各被験者のゴシックアーチに沿った側方偏心位方向 (右側) に1mm (P-1), 2mm (P-2), および3mm (P-3) である. 基準となる力は, 各顎位での最大値を測定しその1/4, 1/2および3/4とした. 被験筋は, 両側の内側翼突筋 (MPt), 咬筋 (Mm) および側頭筋後部 (Tp) の計6筋である. MPtの導出にはfine wire electrodeを用い口外法で, MmおよびTpは表面電極を用いた. 6筋の左右の名称は, 側方偏心方向である右側を作業側 (Ipsi.), 左側対側を (Cont.) とした. 得られた筋電図とロードセル出力は, それぞれEMG実効値 (rms) とkgf単位で定量化した. 統計処理として分散分析を用い, それぞれの荷重方向での6筋の筋活動量の比較について筋, 被験者, 顎位および力を, 同一筋における荷重方向による筋活動量の比較では被験者, 顎位, 力および方向を主変動因子とした. さらに, 最大発揮力について被験者, および顎位を, 咬みしめ時に付随して生ずる側方力, 引きつけ運動時に生ずる垂直力について被験者, 力および顎位を主変動因子とした. その結果, 咬みしめ時には力の増加とともに6筋すべての平均筋活動量は有意に増加した (P<0.001). 一方, 引きつけ運動時では咬みしめ時と異なり力の増加とともに有意な平均筋活動量の増加を示したのはIpsi. MPt, Ipsi. MmおよびCont. Tpの3筋であった (P<0.001). そこでこれら3筋の引きつけ運動時と咬みしめ時の平均筋活動量を比較した結果, Ipsi. MPtの前者の値は後者の値よりも小さかったものの, 両者間に有意差はなく両荷重方向に高い関与を示した. Ipsi. Mmの前者の値は後者の値よりも有意に小さく (P<0.001), 引きつけ運動への関与は, 咬みしめ時への関与に比べて極めて低かった. Cont. Tpの前者の値は後者の値よりも有意に大きく (P<0.001), 純粋な水平力発現に特異的な関与を示した. 咬みしめ時に力の増加とともに付随して側方力が有意に増加し (P<0.01), またこの側方力はP-0からP-3にかけて有意に増加した (P<0.01). 引きつけ運動時には, 力の増加とともに付随して垂直力が有意に増加した (P<0.025) ものの, この垂直力はP-0からP-3にかけては有意な変化を示さなかった. このように垂直力と水平力の発現は相互に密接に関係しており, 実験の咀嚼閉口相終末でも水平力とともに垂直力が同時に発揮されていると考えられる. そこで垂直と水平の両方に高い関与を示したIpsi. MPtは咀嚼閉口相終末の側方力発現に大きく関与することが実験的に明らかとなった.
- 1991-04-25
著者
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