加熱重合レジンの重合操作時におけるひずみ挙動
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概要
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加熱重合レジンには, 重合操作時の温度変化によって熱応力が生じるために重合後に内部応力が残る. この内部応力は, 開輪すなわち義歯を石膏から取り出すときに解放され, 義歯を変形させ, 人工歯の変位や義歯床の不適合などを生じさせると考えられている. また, 開輪時になお内部応力が残存すれば, 義歯装着後にこれが解放されることになり, さらに義歯の変形が継続することになる. したがって, 重合操作時に発生する内部応力をできる限り小さくすることが, 寸法精度がよく変形の少ない義歯を作製するには重要である. そのためには, 加熱重合レジンの重合操作時における内部応力発生の機構を解明することが不可欠であり, それには応力の指標となるひずみの計測が必要である. しかしながら, 従来の加熱重合レジンの研究では, 義歯完成後の人工歯の位置移動や義歯床の適合性についての報告がほとんどで, 義歯の適合性などに影響を与えると考えられる重合操作時におけるレジンの温度変化やひずみについての報告は少ない. このことは, 従来これらの計測に用いられている一般の市販高温ゲージや埋め込み型ゲージでは, 温度補償, 小型化などの点でひずみ測定に困難があったからである. そこで本研究では, そのようなひずみゲージの問題点を考慮し, 加熱重合レジンの重合過程のひずみが計測可能なひずみゲージを試作した. さらに, ひずみとレジン内部温度の同時計測システムを設計した. そして, このシステムを用いて重合試料の厚径や形状および重合方法の異なる場合の重合操作時のひずみと内部温度について比較検討した. また, 埋没用石膏の影響についても調べ, 以下の結論を得た. 1) 同一重合方法では, 試料の厚径や形状が異なるとひずみ量は異なるが, ひずみ挙動はほぼ同様であった. 2) 重合操作時のひずみとレジン内部温度はともに, 各重合方法で特徴ある挙動を示した. また, 全般的に, 重合操作中はレジン内部温度の上昇に伴って圧縮ひずみの増加あるいは引張ひずみの減少が, また, 温度の下降に伴って圧縮ひずみの減少あるいは引張ひずみの増加がみられた. 3) 開輪後のひずみ量は, 長時間低温重合法が最も小さく, JIS法, 短時間高温重合法はほぼ同じであった. 4) 重合操作時の主ひずみの方向は, 全般的に, 重合初期, 温度変化点および開輪時以外は中心部を示した. 5) 埋没用石膏に関しては, 普通石膏埋没が, 超硬質石膏埋没よりも, 沸騰水で加熱したときの圧縮ひずみが小さく, 開輪後のひずみも小さかった. 以上のことから, 加熱重合レジンの重合操作時のひずみ挙動には, 試料の厚径, 形状や温度変化の影響が大きく作用することが判明した. 一方, 埋没用石膏の影響も無視できなかった. また, 本実験で試作した計測システムは, 加熱重合レジンのひずみとその内部温度の計測に有用であった.
- 1991-04-25