局所温度の上昇がラット頭頂縫合拡大による新生骨形成に及ぼす影響
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
矯正力は, 生体の内部環境によってその影響に差異を生ずる. すなわち, 生体に加える矯正力の大きさ, 方向, 作用時間, 作用様式などの外的因子が一定であっても, 力を受ける生体の内的因子, つまり, 栄養状態や内分泌系の代謝などの全身的条件や局所的条件の差によって生体反応はさまざまである. なかでも, 温度という内的因子が生体反応に大きく関与していることはよく知られている. 局所温度の上昇は, 組織pHおよび血流, 細胞内イオンや細胞タンパクの立体構造, 細胞の膜構造をつくる脂質の流動性, さらには細胞の増殖性にも影響を及ぼすことが知られている。歯科矯正学の分野において, 局所温度の変化が骨の吸収添加に及ぼす影響についての報告はない. そこで今回, ラット頭頂縫合拡大後の保定期間中に, 縫合部に対する局所加温が新生骨形成にどのような影響を及ぼすかを検討するため, 以下の方法にしたがって組織学的に検索した. すなわち, Wistar系雄性ラット (52日齢) 64匹の頭頂骨に, 縫合が離関する方向に75gの初期荷重が加わるように作られたスプリングを装着し, その後2日目にコンポジットレジンにてスプリングを固定 (保定開始) し, 1日1回定刻に20分間ずつ保定後5日目まで縫合部の局所加温を行った. 加温には, 加温の影響が脳に達して中枢温度に影響をおよぼさないように, 深達力の弱い遠赤外線を発生させる装置を用いた. 頭頂縫合の骨膜直上における上昇温度の違いにより, control群, 1℃群, 2.5℃群, 4℃群の4群を設定した. 各群ともに保定5日後の加温直後に屠殺し, 光学顕微鏡および蛍光顕微鏡を用いて組織学的, 組織化学的に観察を行った. 1. 光学顕微鏡による観察 各群のラットの頭頂骨を緩衝ホルマリンで固定後, Plank-Rychlo液で脱灰し, 通法にしたがいパラフィンに包埋し, 前頭方向に厚さ6μmに薄切してH-E染色を施した. 一方, 組織化学的な観察を行うため, 各群のラットの屠殺の際に0.1Mカコジル酸緩衝液で緩衝した2.5%グルタルアルデヒドと2%パラホルムアルデヒドとの冷混合固定液 (pH7.3) にて灌流固定および浸漬固定を行った. その後, EDTA液にて脱灰を行い, 通法にしたがって前頭方向に厚さ6μmの凍結切片を作製した. 染色に関しては, Burstoneの方法により酸性ホスファターゼ (以下ACPと略す) 活性を, そしてColeらの方法により酒石酸耐性酸性ホスファターゼ (以下TRAPと略す) 活性の検出を行った. 2. 蛍光顕微鏡による観察 生体染色としては, 保定時にtetracyclineを20mg/kg, 屠殺2時間前にcalceinを8mg/kgの割合で腹腔内注射を行った. その後, 通法にしたがって, 前頭方向に厚さがおよそ50〜60μmになるように研磨切片を作製し, 蛍光顕微鏡を用いて観察した. 結果 1. Control群および1℃群においては, 形成系の細胞が縫合内の主体をなしており, ACP活性およびTRAP活性の陽性領域は, 骨髄内とわずかに縫合内の脈管付近にしか認められなかった. なお, 1℃群においては, 新生骨形成の促進が示唆された. 2. 2.5℃群においては, ACP活性およびTRAP活性はともに陽性で, 破骨細胞の出現に伴って骨吸収像が縫合の上層2/3で認められた. なお, 下層1/3における骨の形成状態はcontrol群と同様であった. 3. 4℃群においては, ACP活性およびTRAP活性の陽性領域が著明に認められ, 縫合内に広範な組織壊死も認められた. なお, 下層1/3における骨の形成状態はcontrol群とほとんど同様であった. まとめ : 以上のように, 新生骨形成が1℃群において促進され, 2.5℃および4℃群において抑制されたことから, ラット頭頂縫合離開後の保定期間中における新生骨の形成様式は, 局所温度の上昇にともなって差異を生ずることが示唆された.
- 1991-04-25