ヒト乾燥頭蓋骨を用いたパラタルバーの上顎骨に及ぼす影響に関する実験的研究
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概要
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矯正歯科臨床分野において, II級不正咬合の成長発育期の患者に対して, より効果的な顎の三次元的成長コントロールを行うのに, ヘッドギアーとともに嚥下時舌圧を利用したパラタルバーが使用されている. 本実験では成人および小児乾燥頭蓋骨各1体を試料とし, ストレインゲージ法を用い, パラタルバーを介して上顎第一大臼歯に加わる垂直圧が, どのような作用を上顎骨に及ぼしているのかについて検索を行う目的で力学的な実験を行った. ヒト乾燥頭蓋骨の上顎骨を中心に, 直角三軸型ロゼットゲージ (共和電業社製, KFC-2-D17-11L100, 電気抵抗値120Ω) を成人頭蓋で32か所, 小児頭蓋で25か所に接着し, Co-Cr合金製のパラタルバーを左右の上顎第一大臼歯にセメント合着した. 実験には, ストレートとカーブの2つのタイプのパラタルバーを使用し, 荷重がパラタルバーに対して垂直的に働くように, 咬合平面規定板によって頭蓋骨を固定台に設定し, 即時重合レジン (ブルーオストロン, G-C社製) で固定した. 荷重装置は, Shimadzu AUTOGRAPH S-100に圧縮ジグを備えたものを用いて, 荷重の強さを1, 2, 3, 4kgとし, そのうちの成人頭蓋では4kg, 小児頭蓋では2kgの値を使用した. なお, 歪測定にはデジタルメータ (共和電業社製, UCAM-5B) およびスキャナ (共和電業社製, USB-51A) を使用して静歪測定を行い, 次の結果を得た. 1) 上顎骨の歯槽骨頬側板における歪分布は, パラタルバーのタイプによって異なるが, 成人および小児頭蓋を問わず, ストレートタイプでは上顎第一大臼歯を中心とする側方歯の歯槽骨頬側板において, 咬合平面に対して垂直方向の圧縮歪が認められた. それに対して, カーブタイプでは同部位における圧縮歪は前者よりも小さい値を示した. 2) 歯槽骨舌側板での歪分布は, 成人および小児頭蓋ともに, ストレートタイプでは上顎第一大臼歯を中心とする側方歯の歯槽骨舌側板で, 咬合平面に対して垂直方向の圧縮歪が認められた. それに対して, カーブタイプでは同部位における圧縮歪は前者よりも大きい値を示した. 3) 小児頭蓋では, パラタルバーのタイプを問わず, ヘッドギアーの後上方牽引時のような反時計まわりの回転に近い上顎骨の変形が認められた. 4) 成人および小児頭蓋では, パラタルバーのタイプを問わず, 上顎骨前頭突起部, 鼻骨部, 眼窩下孔付近, 頬骨眼窩面, 上顎骨眼窩面, 篩骨眼窩板, 頬骨上顎縫合部および前頭鼻骨縫合部付近など, 上顎骨ならびにそれに隣接する周囲骨にも歪が及んでいた. 以上の結果から, パラタルバーは成長発育期のII級I類不正咬合および下顎下縁平面角の大きい不正咬合の患者に使用することによって, 上顎第一大臼歯を含めた側力歯群の歯槽骨の垂直成長コントロールが行える. また, 成人に使用した場合も, 顎間ゴムなどの矯正力による上顎第一大臼歯の拠出, および近心移動に抵抗する固定源の加強として役立つことが示唆された.
- 1990-08-25
著者
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