口腔感染病巣から分離したレンサ球菌および腸球菌の抗生物質感受性
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概要
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細菌感染症の治療において化学療法は必ず行われる. したがって, 病巣内に存在する病原細菌の抗生物質感受性を知ることは, 化学療法を行う上で不可欠である. そこで本研究では, 口腔の化膿性の感染病巣から高頻度に検出されるレンサ球菌, および病巣に残存すると病変の治癒を長引かせる可能性のある腸球菌を口腔の化膿性感染病巣から分離し, 菌種の同定を行ったのち, それらの細菌の抗生物質感受性を測定した. さらに, β-ラクタマーゼ耐性菌の存在を知る目的で, 分離菌のβ-ラクタマーゼ産生性をnitrocefinを用いて検討した. また, 同一菌種間で, セファロスポリン系抗生物質に対する感受性に大きな差のみられた腸球菌2株について, 感受性に差を生じた原因を探る目的で, 腸球菌にセファレキシンを作用させたときの細菌細胞の形態変化を透過型電子顕微鏡を用いて観察した. 46名の患者の口腔の化膿性感染病巣から口腔レンサ球菌としてStreptococcus milleri 17株, S. sanguis 10株, S. morbillorum 10株, およびS. mitior 5株が分離された. また, 種の同定の困難なレンサ球菌, すなわちStreptococcus sp. が7株分離された. 腸球菌としてはStreptococcus faecalisが3株分離された. 感受性測定の結果, 口腔レンサ球菌はペニシリン系抗生物質では, アンピシリンおよびアモキシシリンに対して高い感受性を示した. 腸球菌のペニシリン系抗生物質に対する感受性は, アンピシリン, アモキシシリンでは中程度, カルベニシリンでは低かった. セファロスポリン系抗生物質に対して口腔レンサ球菌は中程度の感受性であった. 腸球菌のセファロスポリン系抗生物質に対する感受性は概して低かったが, セファレキシンおよびセファクロールではやや感受性の高い株が1株存在し, 同一菌種間で感受性に差が認められた. マクロライド系抗生物質に対する口腔レンサ球菌の感受性は高く, クリンダマイシン, エリスロマイシンおよびジョサマイシンでは, ほとんどの株の発育が0.013μg/mlの抗生物質濃度で阻止された. しかし, 腸球菌のマクロライド系抗生物質に対する感受性は低かった. アミノグリコシド系抗生物質, コリスチン, およびポリミキシンに対しては, 口腔レンサ球菌ならびに腸球菌とも感受性は低く, 200μg/mlの濃度でもその発育は阻止されなかった. テトラサイクリン系抗生物質に対する口腔レンサ球菌の感受性は高かったが, 耐性を有すると推測される株が数株存在した. 腸球菌のテトラサイクリン系抗生物質に対する感受性はやや低かった. Nitrocefinを用いたβ-ラクタマーゼの検出実験では, 口腔レンサ球菌および腸球菌のいずれからもβ-ラクタマーゼは検出されなかった. 腸球菌にセファレキシンを作用させると, 非感受性株では細胞の伸長像が観察された. 一方, 感受性株では, 細胞は伸長せずに, そのまま崩壊した. このことから, セファレキシンに対する, 腸球菌の株間における感受性の差は, ペニシリン系およびセファロスポリン系抗生物質の標的であり, 細胞の形態決定機能を有するペニシリン結合蛋白質とセファレキシンとの親和性の差によることが推測された. 以上の感受性試験の結果と, 口腔感染症のほとんどが混合感染の様相を呈し, 混合感染菌として偏性嫌気性のグラム陰性菌が多く検出されることから, 本研究に供試した抗生物質の中では, 口腔領域の化膿性感染症に対してはクリンダマイシンの有用性が高いと考えられた.
- 大阪歯科学会の論文
- 1990-08-25