ラット肝ヘパラン硫酸の単離とその糖鎖構造におよぼす糖尿病の影響
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概要
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最近の研究から, ヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG) は細胞表層や基底膜に局在し, 単に静的なマトリックス構成因子としての役割のほかに, 細胞モジュレーターとして成長因子との相互作用をはじめとする多様な機能をもった動的な分子であることが明らかにされつつある. HSPGの機能はHS鎖によるところが多く, 病態下でのHS鎖構造の検索は細胞表層や基底膜HSPGの機能を知るうえで有用と考えられる. 本研究では, 糖尿病下における肝HS糖鎖構造の変化を明らかにするため, ストレプトゾトシン糖尿病ラットを対象に, まず肝HSの単離法を検討し, ついで精製HSを生化学的に分析した. 実験には, 9週齢のSD系雌ラットを用い, 糖尿病誘発4週経過後, 高血糖を維持しているものを実験群とした. また, 同週齢の無処置ラットを対照群とし, 両群ラットから肝臓を摘出して, 脱脂乾燥試料とした. 脱脂乾燥試料から, 常法にしたがってグリコサミノグリカン (GAG) を抽出精製し, さらにコンドロイチナーゼABC消化とCPC沈殿でHS試料を調整した. このHS試料にはHSのほかにアルシアンブルー陽性の未確認物質が混在していた. そこで, HS試料をSephadex G-100カラムクロマトグラフィーで分離したところ, 電気泳動的にHSと確認される単一のバンドを得ることができ, この画分を精製HSとした. このHSにおよぼす糖尿病の影響をカラムクロマトグラフィーおよびHPLCによる糖鎖構造の解析から検討したところ, 次の所見を得た. 1) 実験群の体重は対照群に比べて減少したが, 逆に組織乾燥重量は増加した. また, 組織乾燥重量あたりの総タンパク質量は対照群に比べて実験群で増加したが, DNA量とHyp量には変化がなかった. これに対し, GAG量は実験群で著明に減少し, 肝GAGは糖尿病下でグリコーゲンと同じ傾向の代謝異常 (合成系の抑制, 分解系の亢進) をきたしているものと考えられた. 2) 肝HS量は対照群に比べて実験群で著しく減少した. この所見は, 糖尿病下では肝の細胞成長因子受容体数が減少するという知見と対応するものである. 3) HSの分子量分布をSephacryl S-300HRカラムクロマトグラフィーで検討したところ, 正常肝には少なくとも細胞膜由来と基底膜由来の2種類の異なる分子量分布をもつHSが存在する可能性が示唆された. 実験群のクロマトグラムでは, 細胞膜HSのピークが対照群に比べて低下するとともに複雑な形状を呈し, 肝HSの分子量分布は糖尿病下で影響を受け, とくに細胞膜のHSは多様性を増すことが示唆された. 4) HSを加水分解し, 蛍光修飾したのちにHPLCで分析したところ, グルクロン酸に対するイズロン酸のピーク高さ比は対照群に比べて実験群で高値を示した. 以上のような肝HSの量的, 質的変動は, HSと成長因子が細胞外骨格機能の面から密接な関わりをもち, また, HS糖鎖構造の変化がHSPGの機能にも影響をおよぼすことを示唆している.
- 大阪歯科学会の論文
- 1990-08-25
著者
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