Bacteroides intermediusの線毛の性状
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概要
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細菌の感染が成立する第一歩は, 細菌が宿主細胞に付着することである. 細菌の付着には, 菌体表層の構成因子が関与している. 現在, 付着因子として, 各種細菌の線毛と莢膜, StreptococcusやStaphylococcusなどのリポタイコ酸, Streptococcus mutansのグリコカリックスおよびVibrio choleraeの赤血球凝集素などが報告されている. なかでも, Escherichia coliの尿路への付着因子であるP線毛, type 1線毛およびM付着因子がよく研究されており, それぞれに対する宿主側のレセプターも明らかにされている. 口腔常在細菌では, Bacteroides gingivalis (B. gingivalis), B. intermediusとB. loescheii, Actinomyces viscosusとa. naeslundii, Streptococcus sanguisなどで線毛に関する研究がなされている. なかでも, B. gingivalisの線毛は, 最も研究されており, 歯肉溝への本菌の定着と増殖に本菌が関与すると考えられてきた. しかし, 最近, B. gingivalisから分離, 精製した線毛には赤血球凝集活性がないことから, 本菌の線毛には付着因子としての働きがないとみなされている. LeungらはB. intermediusの線毛を電顕像による大きさから4 typeに分類し, 線毛が菌体の頬粘膜上皮細胞への付着や数種の動物の赤血球凝集性に関与する可能性を示唆している. 大前らはB. intermedius strain 17から線毛を分離, 精製する過程で, 逐一, ネガティブ染色像と赤血球凝集活性を調べ, 本菌から赤血球凝集活性を有する線毛が精製されたと報告している. しかし, B. intermedius strain 17の線毛の性状については明らかにされていない. そこで, 本研究では, 線毛をDEAE-Sepharose CL-6Bで溶出する際に, triton X-100の代わりにzwittergent 3-14を用いて線毛の精製を試みるとともに, 精製した線毛の性状について検討し, 以下の成績を得た. ショ糖密度勾配遠心とDEAE-Sepharose CL-6Bにより精製した線毛は, 免疫学的に均一であり, ウサギ赤血球に対して強い凝集活性が認められた. 赤血球凝集活性は, 抗線毛血清 (1:8) の16倍希釈液で抑制された. この事実は, 線毛が赤血球凝集素としての働きをもつことを示している. 精製線毛の赤血球凝集活性は60〜70℃, 10分間処理では50%, 100℃, 10分間処理では94%抑制され, また, trypsinでは88%, protease type IVとproteinaseでは, それぞれ50%抑制された. 精製線毛をpH2.0〜7.0までのbufferに透析後, 生じた沈殿を遠心で上清と沈渣とに分け, それぞれを再度pH7.0のbufferに透析した. 透析後, タンパク量と赤血球凝集活性を測定した結果, pH値が7.0から小さくなるにともない, 沈渣のタンパク量も増加し, 赤血球凝集活性も, pH4.5まで上昇 (512AU) した. その後, pH値が小さくなるにともない, この活性も低下し, pH 3.0以下では認められなかった. 一方, 上清のタンパク量と赤血球凝集活性はpH値が7.0から小さくなるにともなって減少し, タンパクはpH4.5〜2.5ではほとんど検出されなかった. 赤血球凝集活性はpH 4.0以下では検出されず, また, この活性の回復も認められなかった. 以上の結果から, 本線毛は, 等電点がpH4.0〜4.5付近にあり, 酸によって赤血球凝集活性は失われるが, 熱に比較的安定なタンパクであると考えられる. また, 供試した22種の糖のうち, D-glucosamineのみが精製線毛による赤血球凝集活性の94%を抑制したことは, この線毛に対するレセプターにD-glucosamineが関与していることを示唆している.
- 1990-08-25