抜歯時における歯根の形態差が歯根および歯槽骨に及ぼす力学的影響
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概要
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抜歯時における歯および歯槽骨の力学的挙動を究明することは, より安全な抜歯方法を検討する上で, きわめて重要なことである. 教室の松本は, すでに抜歯時における歯根および歯槽骨の力学的挙動を有限要素法により検討し, 種々の抜歯力が正常な歯根および歯槽窩壁に及ぼす影響について明確にした. しかし, 臨床上問題となる歯根の異常形態については推測の域を出ていないのが現況である. そこで, 著者は歯根形態の差が歯根および歯槽骨に及ぼす力学的影響について有限要素法による応力解析を行い検討したので報告する. 実験の対象として下顎第一小臼歯および下顎第一大臼歯を取りあげ, 下顎第一小臼歯近遠心断面を模式化したものを単根歯の基本形とし, 114個の節点と186個の三角形要素に分割し, また下顎第一大臼歯近遠心断面を模式化したものを複根歯の基本形とし200個の節点と353個の三角形要素に分割し, それぞれ2次元平面問題として処理した. ついで, 口腔病理学的および口腔解剖学的な歯根の形態異常の分類を参考に, 単根歯では歯根の太さ, 長さ, 根尖肥大度, 根尖部の彎曲度を変化させたモデル歯を, また, 複根歯では2根の収斂および開離について変化させたモデル歯をそれぞれ作製した. 作製されたモデル歯の周囲には歯槽骨を想定した骨モデルを設定し, 骨の底辺部を固定支持とした. 抜歯力すなわち抜歯を行うための荷重を各モデルに負荷する方法は松本の方法にしたがい, すべて単位荷重 (1kg) を負荷した. また, 負荷部位はモデル歯が左右対称形では左側歯頚部, 非対称形では左側歯頚部および右側歯頚部とした. 有限要素法の解析にあたっては, 平面応力解析プログラムSTRS-2D (くいんと社製) をプログラムとして用い, パーソナルコンピューターPC98XA (NEC社製) を用いて演算を行った. 単根歯の根尖部歯質内応力および根尖部の変位量を, 基本形のモデル歯と異常歯根形態のモデル歯とで比較した. くさび力負荷時, 細と長では根尖部の応力が基本形に比較して大きくなり, 太では逆に小さくなった. また, 彎曲度が大きくなると応力は大きくなった. 歯根が彎曲している場合の荷重側についてみると, 左側すなわち彎曲線の内側の方が右側すなわち彎曲線の外側よりも応力は大きくなった. てこ力負荷時でもくさび力とほぼ同様の結果であった. また, 単根歯の歯頚部周囲の歯槽骨に発生した応力および同歯の歯頚線中心部の変位量について, 基本形と異常根形態のそれぞれのモデル歯について比較検討した. くさび力負荷時, 基本形に比較して細, 短で応力が小さくなった. しかし, 太, 長, 根尖肥大, 彎曲で逆に大きくなった. てこ力負荷時も同様であった. 複根歯の根尖部歯質内応力および根尖部の変位量について同様に比較検討した. 基本形に比較して, くさび力負荷時では収斂の右根尖および開離の左右根尖, てこ力負荷時では収斂の左右根尖と開離の左根尖の応力がそれぞれ大きくなった. また変位量は収斂では大きくなり, 開離では小さくなる傾向であった. 以上のことから, 歯根の形態異常における抜歯力の歯根および周囲の歯槽骨に及ぼす力学的影響が明確となり, 有限要素法を用いることにより従来から経験的に施行されてきた抜歯手技の根拠を力学的に評価しうることが示唆された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1990-08-25
大阪歯科学会 | 論文
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