凍結療法が神経機能に及ぼす影響に関する実験的研究
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概要
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末梢神経が周辺組織とともに凍結損傷を受けた場合, その神経の示す態度について詳細に報告したものはみあたらない. そこで著者は家兎顔面神経を周辺組織とともに広範囲に凍結し, その後におこる変化を筋電図学的および肉眼的に観察した. また, 凍結効果を増大する目的で外頚動脈切断直後, 同様に凍結を行い比較検討した. 実験動物には成熟家兎 (体重2〜2.5kg) 60羽を用い, 外頚動脈非切断群 (以下A群とする) 35羽と外頚動脈切断群 (以下B群とする) 15羽に分け, また凍結部の組織内温度測定に10羽用いた. 本実験のために銅板製の凍結用プローベ (以下プローベとする) を作製した. 筋電図の観察には二芯型針電極を, また温度測定にはcryothermometerを用いた. プローベの凍結能力はプローベに直接熱電対針を接触させ, 液体窒素を灌流して測定した. プローベの凍結範囲は水槽に37℃の生理食塩水5lを入れ, その中にプローベを挿入して液体窒素を灌流し, 形成される氷塊の大きさで測定した. 凍結部位の組織内温度は, 左側の顔面神経が茎乳突孔を出て上枝, 下枝に分岐する部位にプローベを圧接して液体窒素を2分間灌流し, 熱電対針をプローベ直下で下顎枝骨面に接する深さに刺入して測定した. また左側外頚動脈を結紮切断後, 同様に凍結し, 温度測定した. また, A群, B群とも前記と同様に凍結し, 以後の顔面神経機能を検索するため, 眼輪筋眼瞼部, 頬筋頬部, 鼻唇挙筋および下唇下制筋の随意運動時と安静時の筋電図所見を観察した。さらに肉眼的所見についても観察した. 実験結果 1. 液体窒素灌流開始10秒でプローベ温度は-196℃となり, 灌流停止後, 2分30秒で0℃となった. 2. 液体窒素を2分間灌流凍結した結果, 氷塊の形成は最大径2.8×5.5cm以内であった. 3. 凍結部の温度変化は凍結開始後2分でA群では-62℃, B群では-64℃まで低下した. 灌流停止後, A群では2分30秒, B群では3分でそれぞれ0℃まで上昇した. 4. 1) A群, B群ともに凍結直後から随意運動はみられず, 角膜反射も消失した. 凍結後2週頃には著しい顔貌の非対称性がみられたが, この所見は凍結後7週でも回復はみられなかった. また, 凍結壊死組織はA群, B群とも凍結後5週に脱落した. 2) A群, B群とも凍結後3日から筋電図で脱神経を示す種々の放電を認めた. 3) A群では凍結後5週で, B群では凍結後7週で, 脱神経を示す放電の消失を認めた. 4) A群では凍結後3週で, B群では凍結後5週で, 神経再支配を示す随意的放電を認めた. 5) A群では凍結後6週で, B群では凍結後7週で, 肉眼的に非凍結側よりは劣るが, 比較的良好な随意運動を認め, 筋電図でもnormal NMU voltageに近い放電を認めたが干渉波にはならなかった. 6) A群, B群ともreinnervation voltageと思われる放電は全く認めず, 神経切断後にみられる過誤支配はないと考えられた. 結論 家兎顔面神経が周辺組織とともに凍結されても, その損傷はSeddonの分類によるneurotmesisにいたらず, axonotmesis程度の損傷にとどまると考えられ, 比較的順調な神経機能の回復を示した.
- 1990-08-25