健全および脱灰・再石灰化象牙質表面に対するフッ化物の影響(大阪歯科大学大学院歯学研究科博士(歯学)学位論文内容要旨および論文審査結果要旨の公表)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
二次齲触や根面齲触の予防を目的として, フッ素含有修復物が歯科臨床に頻繁に応用されるようになってきている.しかし, エナメル質に対するフッ化物の影響を明らかにした研究が多数見られるのに対し, 二次齲触のホスト因子である象牙質に対するフッ化物の影響を検討した報告は数少ないのが現状である.そこで今回, 象牙質の表層に及ぼすフッ化物の影響を検索する目的でフッ化物処理した健全および脱灰・再石灰化象牙質の表面微細構造観察および表面化学組成分析を行った.廣瀬らの方法に準じて鏡面研磨象牙質ディスク(直径3mm)を作製し健全象牙質とした.健全象牙質表面(直径3mm)を14mLの脱灰・再石灰化溶液(0.1M乳酸溶液, 0.2%水溶性レジン:Carbopolおよび50%飽和HAp溶液, pH5.0)に, 37℃, 24時間浸漬したのち, 蒸留水で洗浄し, 脱灰・再石灰化象牙質とした.それらの試料を10mLのNaF(0.2, 1.0および2.0%, pH6.8)水溶液に4分間浸漬後, 蒸留水で洗浄し, NaF処理象牙質とした.それら作製した試料の表面微細構造の観察には, AFM(NanoscopeII)を用い, 試料表面の定性および定量分析にはESCA分析装置(ESCA-Type750)を用いた.各元素の相対濃度およびスペクトルのピーク位置は, Ca_2p, P_2pおよびF_1sで測定した.分析結果についての統計処理は一元配置分散分析およびTukeyの検定で行った.AFM観察結果から, NaF処理後の健全象牙質において, 0.2および1.0%NaF処理象牙質表面は, 低倍率(×2,500)では健全象牙質表面と比較して変化が認められなかった.しかし, 高倍率(×50,000)では健全象牙質表面の結晶と形態および大きさは同じであったが, その大きさが均一な結晶に変化していることが確認できた.さらに, 2.0%NaF処理では, 健全象牙質では認められない長径が200〜300nmの結晶の表面への沈着生成が明らかとなった.一方, 脱灰・再石灰化象牙質において, 脱灰・再石灰化象牙質の表面は健全象牙質表面と比較して, 疎〓な表面を呈していた.また, 表面の結晶間隔は明らかに増加し, 四角形の再石灰化結晶(OCPおよびDCPD)の存在を確認できた.NaF処理後の脱灰・再石灰化象牙質においては, 0.2, 1.0および2.0%のNaFを処理すると, 脱灰・再石灰化象牙質の疎造な表面は変化し, 四角形の結晶形態が健全象牙質結晶と同様の形態を示し, 結晶間隔も明らかに減少していた.2.0%NaF処理では, 脱灰・再石灰化象牙質で認められない30〜70nmの小球状結晶単体と幾つかの結晶が融合した200〜300nmの長紡鍾形の結晶が混在していた.また, すべての処理濃度において象牙細管の封鎖は認められなかった.また, ESCA分析結果から, 表層の定性分析では, NaF処理後の健全および脱灰・再石灰化象牙質において, すべての処理濃度でFの存在を示すF_1sのピークが認められた.また, 処理濃度を増加させると, Fのピーク強度および相対濃度は増加し, その取り込み量は脱灰・再石灰化象牙質に処理するほうが多かった.また, 表層の定量分析では, NaF処理によって, コラーゲン線維を示すNの相対濃度に変化は認められなかった.Ca / P比およびF / Ca比から, NaF処理後の健全象牙質および脱灰・再石灰化象牙質は基本的にアパタイト構造をもっていることが明らかとなり, 0.2および1.0%処理では, フッ素反応物としてフッ素化アパタイト(以下, FHAp)が生成していることが明らかとなった.また, 2.0%処理では, Ca_2pおよびF_1sの結合エメルギー値から, フッ化カルシウム(以下, CaF2)様物質とFHApが混在して生成していることが明らかとなった.以上の結果から, 次の結論を得た.1.フッ化物を作用させることにより, 象牙質表面においても再石灰化が生じることが明らかとなった.2.Fの取り込み量は健全象牙質より脱灰・再石灰化象牙質のほうが多かった.3.健全および脱灰・再石灰化象牙質にフッ化物を応用した場合, NaF処理濃度を増加させるに従ってフッ素化アパタイトの生成, また, 2.0%NaF処理ではフッ化カルシウム様物質の沈着および生成が明らかとなった.4.脱灰・再石灰化象牙質にNaF処理を行うことにより, F反応物が生じ結晶間隙が減少することが明らかとなった.5.健全および脱灰・再石灰化象牙質ともにNaF処理による象牙細管の封鎖は認められなかった.6.フッ素反応物の生成において象牙質の構造の特徴であるコラーゲン線維の関与は表面では認められなかった.すなわち, 本研究から, 象牙質表層におけるフッ化物処理による微細構造と化学組成の変化を明らかにすることができた.
- 2000-06-25
著者
関連論文
- 健全および脱灰・再石灰化象牙質表面に対するフッ化物の影響(大阪歯科大学大学院歯学研究科博士(歯学)学位論文内容要旨および論文審査結果要旨の公表)
- 6 健全および脱灰・再石灰化象牙質表面に対するフッ化物の影響(第469回 大阪歯科学会例会)