上顎急速拡大装置による頭蓋顔面複合体への生力学的影響について
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概要
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矯正歯科臨床において, 上顎骨の狭窄を伴う不正咬合の治療のために, expansion screwを用いて上顎正中口蓋縫合を離開させ, 歯列弓の側方拡大を行う急速拡大装置が用いられる. 本研究ではヒト乾燥頭蓋骨にストレンゲージ法を応用して上顎脅と周囲骨および各縫合部における歪分布を測定し, 上顎急速拡大装置が頭蓋顔面複合体にどのような影響を及ぼしているかについて検討した. また, 急速拡大装置によるヒト正中口蓋縫合の離開量と側方歯の頬側傾斜量を比較するため, 歯列弓急速拡大を行った矯正歯科患者について, 頭部X線規格写真と咬合型X線写真, 石膏模型により計測を行った. それらとストレンゲージ法による検討を基に上顎急速拡大法による固定歯の動態についても検索した. 実験材料および方法 1.乾燥頭蓋骨による歪分布の実験 歪測定には Hellmanの developmental stage IIIBに属する混合歯列期の小児乾燥頭蓋骨を用いた. 上顎歯列弓拡大にあたっては, 両側の上顎第一大臼歯のバンドに expansion screwを鑞着し通法どおり作製したものを, 乾燥頭蓋骨に装着した. screw keyを用いて expansion screwを45゜, 90゜, 135゜, 180゜回転させ(360゜で1.0mmの拡大), それぞれについて静歪測定値を求めた. 歪測定にあたっては, 3軸ロゼットゲージを上顎骨および周辺縫合部に接着し, 上顎歯列弓拡大による各部の歪を測定した. 2.臨床応用 対象は大阪歯科大学附属病院矯正歯科に来院した上顎歯列弓の狭窄を伴う不正咬合患者のうち, 上顎急速拡大法によって治療を行った患者8名(年齢10歳0か月〜16歳7か月)である. 上顎歯列弓拡大にあたっては乾燥頭蓋骨による実験で用いたものと同様の拡大装置を用い, 1日2回, おのおの90゜ずつ回転させた(360゜回転で1.0mmの拡大). 計測は石膏模型による5項目の幅径計測, 頭部X線規格写真による2項目の角度計測と, 4項目の幅径計測を行った. 実験結果および考察 1.乾燥頭蓋骨による歪分布 臼歯部歯槽骨では頬側で圧縮歪, 口蓋側で引っ張り歪が認められたことより歯槽骨の頬側への曲げ変形が引き起こされていると考えられた. 正中口蓋縫合では横口蓋縫合を境にして前方で大きく後方で小さな, 縫合線に対して垂直方向の引っ張り歪を示したことより, 口蓋が前方で大きく後方で小さい扇状の拡大をしていると考えられた. また, 上顎骨とその周囲骨との縫合部の歪変化より前頭面において上顎肯は外上方への扇状の回転をし, その回転の中心は鼻骨上方にあり, 頬骨が上顎骨の扇状の回転の抵抗となっていることが示唆された. 2.臨床応用 拡大装置の支台歯である上顎第一小臼歯と上顎第一大臼歯の歯冠部拡大量は screw拡大量を上回っており, 上顎第一大臼歯の頬側傾斜量を算出したところ, 最大13.5゜, 最小0゜で8症例平均では左右平均4.57゜であった. 以上のことから, 上顎歯列弓の急速拡大法は確実に正中口蓋縫合を難開させ歯列弓の拡大が行える有効な方法であるが, 拡大量の一部は側方歯の頬側傾斜によるものであることが明らかになった. この際, 歯槽窩内での歯の傾斜移動, 上顎骨の外上方への扇状の回転, 歯槽骨の外側への変形の総計が側方歯の頬側傾斜量となって現われることが示唆された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1996-06-25
大阪歯科学会 | 論文
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