チューイング進行に伴うガムの食品テクスチャーの変化が咀嚼機能に及ぼす影響
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概要
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咀嚼は大脳皮質と末梢からの感覚情報の相互作用によって食品の物性に合わせて調節される. これまで, 咀嚼機能の分析には, 被験食品として咀嚼による物性変化がない軟化後のガムが用いられてきた. しかし, 実際の咀嚼では食品物性がストロークごとに変化することから, それに対応して変化する咀嚼系の複雑な機能は未だ明らかにされていない. 本研究では, チューイングに伴うガムの食品テクスチャーの経時変化を定量したうえで, ガムの硬さの違いおよびガムの物性の経時変化が咀嚼機能に及ぼす影響について検討した. 11名の健常有歯顎者(以下, 健常者群とする.)と6名の咀嚼筋痛を伴う顎機能異常患者(以下, 患者群とする.)に, 乾性ガム(グリーンガム, ロッテ)および硬性ガム(トレーニングガム, ロッテ)を240秒間自由にチューイングさせ, チューイングに伴うガムの食品テクスチャー(硬さ, ガム性, 凝集性および粘着性)の変化を計測した. さらに健常者群12名および患者群8名について, 食品テクスチャーの経時変化の大きいチューイング初期の10秒間(以下, VSとする.)と, 変化の少ない後期の時点での10秒間(以下, SSとする.)における各ガムチューイング時の咀嚼筋筋活動について分析した. 咀嚼運動は, Mandibular kinesiographを用いて記録した. ストロークごとに, 閉口相時間, 咬合相時間, 開口相時間, サイクルタイム, 最大開口距離, 最大前後移動距離, 最大側方移動距離, 最大閉口速度および最大開口速度を計測した. また, 咀嚼筋筋電位を両側側頭筋前部および咬筋の4筋より双極誘導し, 咀嚼運動と同時に記録した. ストロークごとに各筋の活動量を求め, 4筋の和を各ストロークの筋活動量とした. 得られたパラメータ値の各区間内の平均および変動係数(以下CVとする.)を三元配置分散分析ならびに対比を用いて統計学的に検討した. その結果, 1)ガムの食品テクスチャーのすべてのパラメータは, チューイング開始直後に著しく変化し, 60〜120秒後の区間では安定した. また, 健常者群における10秒後の硬さならびにガム性は, 患者群よりも有意に小さかった. 2)健常者群においてガムの硬さが増加すると, 筋活動量, 閉口相時間, 最大開口距離, 最大前後移動距離, 最大閉口速度および最大開口速度が増加したが, 最大開口距離および最大前後移動距離を除き各パラメータのCVは変化しなかった. 3)健常者群ではSSよりもVSにおいて, 筋活動量, 閉口相時間, 最大開口距離, 最大前後移動距離, 最大側方移動距離, 最大閉口速度および最大開口速度が大きく, 各パラメータのCVも最大側方移動距離および最大閉口速度を除いて有意に大きかった. 4)患者群においてガムの硬さが増せば, 筋活動量, 咬合相時間および最大前後移動距離は増加したが, 各パラメータのCVは閉口相時間を除き変化しなかった. 5)患者群ではSSよりもVSにおいて, 筋活動量, 最大開口距離, 最大前後移動距離, 最大閉口速度および最大開口速度が有意に大きく, 開口相時間は短かった. 一方, 各パラメータのCVは, 閉口相時間および最大開口距離を除き変化しなかった. 以上の結果から, 健常者群において咀嚼系は, パターンジェネレータにより高度に統制されつつ, 食品の物性やその経時変化に対して咀嚼運動ならびに筋活動を調節していると考えられた. 一方, 患者群において咀嚼系はパターンジェネレータによって統制されるものの, 一連のフィードバック機構に健常者群との差異が認められ, その結果としてチューイング開始直後のガムの食品テクスチャーに影響したものと推察された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1996-06-25
大阪歯科学会 | 論文
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