水銀に対する細胞の耐性発現について
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概要
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口腔顎顔面領域において生じた欠損の回復には, 本来は生体にない人工材料, すなわち生体異物が種々用いられている. それらが長い期間にわたって生体内にとどまるとき, その活性度や腐食, 酸化, 加水分解, 溶解などの変化によって生体組織に為害性を及ぼすことがある. 一方で, 生体組織および培養細胞においての生体必須重金属の代謝や有毒重金属の解毒に金属が種々の結合状態によってメタロチオネインとなる結果, その金属に対する細胞毒性が減弱化することが認められている. また, 化学物質が生体組織および培養細胞に対してストレスとなる結果, ストレス蛋白質が産生され, 生体を防御する働きがあるともいわれている. これらの現象は細胞の防御機構の一面, すなわち耐性と考えられる. 本研究においては, 種々の人工材料を生体修復用のバイオマテリアルとして用いる場合, 生体内での反応機構の解明にも関連する細胞の耐性について究明することを目的とした. 歯科用としても関連ある水銀に対する HeLa細胞の耐性発現に及ぼす影響についてみた. その結果, 以下のような結論を得た. 1)1回のみの前処理を行った場合, 24時間の回復期間後には, 塩化水銀濃度5μM以上で耐性発現が認められた. しかし, 0時間と96時間の回復期間後には明確な耐性発現が認められなかった. 2)塩化水銀による繰り返し処理が及ぼす影響については, 前処理後の回復期間が0時間の場合, 反覆処理回数が増すと, 耐性発現が認められた. また, 24時間の回復期間においては, 2回処理で最も顕著に耐性発現が認められた. これに反して, 96時間の回復期間においては, その処理回数に関係なく耐性発現は認められなかった. 3)24時間の回復期間後の1回, 2回, 3回処理および0時間の回復期間後の3回処理で, 分子量約6,000, 約32,000および約70,000のそれぞれ細胞内蛋白質の存在を示すバンドが認められた. 今回の結果から, HeLa細胞に対して塩化水銀を作用させた際, 細胞毒性の発現濃度以下の処理で細胞毒性の耐性発現が認められた. それには処理後の時間経過が必要なことがわかった. バイオマテリアルの生物学的性質を調べるうえから, 生体における異物反応メカニズム, 耐性発現と細胞毒性発現の関係について考合する必要のあることが示唆された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1995-10-25
大阪歯科学会 | 論文
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