ハイドロキシアパタイト : 細菌間の表面ポテンシャルエネルギー
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概要
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歯垢形成機序を界面化学的に解明する講座の一連の研究の一つとして, 本研究ではハイドロキシアパタイト(HAp), タンパク質被覆HApおよび口腔内細菌の各表面間に働く相互作用ポテンシャルエネルギー(Vel+V_Aを電気二重層間相互作用力(Vel)およびファンデルワールス力(V_Aから理論計算し, HApへの細菌の付着現象に及ぼす遠距離で働く力の効果を検討した. HApには三井東圧社製, タンパク質にはヒト血清アルブミン, ウシ顎下腺ムチン, トリ卵白コンアルブミン, ヒトγ-グロブリン, ウシ膵臓キモトリプシンおよびサケプロタミンならびに口腔内細菌には Streptococcus rattus BHT (S. rattus BHT), S. cricetus HS-6, S. mutans OMZ175, S. mutans K-1 および S. sobrinus 6715を用いた. 電気二重層間相互作用力は, Hogg-Healyの理論を用いて算出した. なお算出に必要なHAp, タンパク質被覆HApおよび口腔内細菌のゼータ電位は通法に従い, 0.03Mリン酸緩衝液中(pH6.0, 7.0, 8.0)で測定した結果を用いた. ファンデルワールス力は, V_A=-A/48πh^2 (A: Hamaker定数, h: 粒子間距離の1/2)により算出した. なお, Hamaker定数には Visser および Nir の値を用いた. 同種粒子間の場合, HAp間では極大反発力(Vmax)が大きく, 凝集しにくいのに対し, 負のゼータ電位が低い細菌(S. mutans OMZ175, S. mutans K-1および S. sobrinus 6715)間では Vmax が小さく, 凝集しやすいことがわかった. 異種粒子間の場合, 負のゼータ電位が低い細菌とHApとの間の Vmaxは, 負のゼータ電位が高い細菌と HApとの間のものに比べて小さい. すなわち, ゼータ電位の大きさから, HAp表面に付着しやすい菌と付着しにくい菌とに大別できることが明らかとなった. また, タンパク質被覆HApと口腔内細菌との間においては, タンパク質の Hamaker定数が水よりも小さいため, ファンデルワールス力はつねに反発力となった. とくに, HApの負の電位を高くするタンパク質がHApに吸着すると, 静電気的にも反発力が生じ, 細菌の付着はきわめて起こりにくくなる. この傾向は負のゼータ電位が高い細菌において顕著であった. これに対して, HApの正のゼータ電位を高くするタンパク質がHApに吸着すると, 細菌の種類を問わず, 静電気的引力がファンデルワールス力の反発力を大きく上回り, きわめて付着しやすい状態になった. また, 溶液pHが低くなるほど, 細菌の付着は容易になる傾向を示した. 以上の結果から, HAp表面に Hamaker定数が水よりも小さく, かつ HApの負の電位を高くする物質を吸着させ, 溶液のpHを高くすることができれば, HApと細菌との間に大きな相互作用ポテンンャルエネルギーの障壁が生成し, それによって, 細菌とくに負の電位の高い細菌の付着を遠距離力で阻害できることが示唆された.
- 1995-06-25
著者
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