舌下神経切断後のラット舌組織と微細血管の変化について
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概要
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神経切断後の組織学的変化に関する研究は多いが, 微細血管構築の変化についての検索はみられない. 本研究は片側舌下神経を後顎下部で切断し, 切断直後から7週にいたるまで舌内および舌背に現われる諸変化を経日的に検索したものである. 検索の指標は, 舌背表面の性状, 舌内筋と間質の組織学的変化, 舌背とくに糸状乳頭内の毛細血管ループの変化, さらにlaser Doppler Flowmetry (LDF)による舌背表面の血流量の変化とした. 実験材料および方法 本実験にはWistar系ラットを用いた. 実験群のラットは左側後顎下部で舌下神経を露出させて同定確認し, 長さ約3mm切断除去した. 神経切断を行った動物は3〜5日, 1〜7週および66週それぞれにおいて安楽死させたのちプラスチック微細血管注入法により, 上行大動脈からアクリル樹脂を注入して舌の微細血管鋳型を作製, またKarnovsky液の灌流固定後, 舌背粘膜の標本を作製し, それぞれ走査電顕で観察し, 一方, 各期間について舌を前頭面を通る組織切片として光顕観察した. 同時に実験群についてはLDFによって舌背粘膜の血流量を測定した. 実験結果 形態学的変化として神経切断後, 早期に浮腫が出現して1週間以内で最も著明となる. 同時に筋線維の退行性変化(萎縮)もみられ, 2〜3週では実験側の舌背粘膜表面に陥凹が生じ, 舌外側縁は波状面となっていた. また舌内筋束は断絶して錯乱していた. 4〜5週では実験側舌背に浮腫がみられ淡青色となり, また舌正中溝は非実験側へ膨出し, また舌尖は矢状方向に伸長していた. 糸状乳頭は角化度が減少し, 乳頭間距離がやや拡大していた. 6〜7週ではこのような変化がやや進行し, まれに実験側舌外側縁に軽度の潰瘍形成が認められた. 糸状乳頭内の毛細血管ループは, 神経切断後3日で, 最初のその先端に捻れが現われ, それがループ全体に及び, これに膨隆, coiling, 蛇行が加わり, その後はループ間の架橋吻合も加わって形態変化が経週的に進行し, 6〜7週で形態変化が最も多様となり, 毛細血管ループが糸球体様を呈するものも認めた, 66週を経たものでもループ形態の複雑化には回復の兆候を認めなかった. LDF による舌背粘膜表面の血流量は対照群では326.8±89.3unit/mm^2/sec, 実験群では3日で382.4±79.2unit/mm^2/secと, わずかに増加を示したのち, 次第に減少し, 3週で316.5±65.9unit/mm^2/secと最低計測値を示し, 5週で321.6±71.5unit/mm^2/secと対照群のレベルに回復していたが, 血流量減少に対して毛細血管ループ形態の複雑化は増加していた. 考察および結論 ほぼ遠心性神経線維で構成されている舌下神経の切断後は, 舌筋線維の萎縮をもたらし, また血管運動神経線維の切断によって早期に舌背に浮腫が現われ, 未梢血管の血流の制御が喪失し, その変化が糸状乳頭固有層内の毛細血管ループの無秩序かつ複雑な形態変化をきたし, 固有層の血流も変化する. このような変化は長期間を経ても回復されないままであることが判明した.
- 1995-02-25