開口運動における外側翼突筋下頭・顎二腹筋前腹の筋電図学的研究 (大阪歯科大学大学院歯学研究科博士論文内容要旨および論文審査結果要旨)
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概要
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ヒトの開口運動は, 古くには顎関節内の回転運動のみによって行われているという考えがあった. しかし, 人体の解剖学的研究や生理学的研究から, 開口運動は筋活動の協調作用によって顎関節内における回転と滑走運動によることが明らかになってきた. しかしながら, 開口運動における主動筋については, 研究者間で見解の一致がみられていない. それは, 開口運動に関与する外側翼突筋下頭および顎二腹筋前腹の筋電図学的研究は多くみられるが, 開口運動経路と両筋の筋電図を同時記録した研究は少なく, さらに, 下顎運動の測定点が切歯部のみであるため, 開口運動経路を下顎の回転と滑走に分離して分析できなかったことなどが原因として考えられる. 一方, 下顎運動の研究には回転と滑走運動を分離して詳細に分析している報告は数多くみられるが, その原動力である開口筋活動を同時記録した報告は少ない. そこで本研究では, 顆頭部と切歯部の2点を測定点とした下顎運動と, 開口筋である外側翼突筋下頭および顎二腹筋前腹の筋活動とを同時記録し, 両筋の筋活動が開口運動における回転および滑走運動に果たす役割を分析し, 開口運動における主動筋について考察することを目的とした. 研究方法は, 実験的に開口運動時の経路, 開口量および開口速度を変化させて外側翼突筋下頭および顎二腹筋前腹の筋活動と下顎運動を同時記録し, 両筋の機能的役割を分析し, 以下の結果を得た. 1) 習慣的な開口路 (H-path) では, 外側翼突筋下頭と顎二腹筋前腹の筋活動開始順序には一定の傾向は認められなかった. 2) 習慣的な開口路より前方を通る開口運動 (A-path) では, 筋活動の開始は外側翼突筋下頭が顎二腹筋前腹よりも早期に認められた. 3) 習慣的な開口路より後方を通る開口運動 (P-path) では, 筋活動の開始は顎二腹筋前腹が外側翼突筋下頭よりも早期に認められた. 4) 外側翼突筋下頭の筋活動開始点は, すべての開口路で顆頭部移動開始点よりも先行していたが, その時間差は0.25秒以内と小さかった. また, 切歯部移動開始点よりも (A-path), (H-path), (P-path) の順に遅れが大きかった. 5) 顎二腹筋前腹の筋活動開始点は (A-path) では顆頭部移動開始点よりも遅れ, (H-path), (P-path) では先行していた. また, 切歯部移動開始点よりも (A-path), (H-path) では遅れ, (P-path) では先行していた. 6) 切歯部の開口路は開口量の増加に伴って前方を通る傾向にあり, 一方, 開口速度の増加に対しては後方を通る傾向を示した. 7) 同一開口量における開口速度の増加に対し, 顆頭部の前方への移動量は減少傾向を示し, 切歯部の後方への移動量は増加傾向を示した. 8) 外側翼突筋下頭の筋活動量は, 顆頭部の移動量と正の相関が認められたが, 切歯部の移動量とは相関は認められなかった. また, 移動速度とは開口量が大きい場合のみで正の相関が認められたが, 他では認められなかった. 9) 顎二腹筋前腹の筋活動量は, 顆頭部および切歯部の移動量ともに相関は認められなかった. また, 移動速度とは開口量が小さい割合のみで相関は認められなかったが, 他ではすべて正の相関が認められた. 以上のことから, 開口運動時の両筋の機能的な役割は, 外側翼突筋下頭については顆頭を前下方に動かすこと, すなわち, 顆頭移動による開口量のコントロールであり, また, 顎二腹筋前腹については切歯部を後下方に引き下顎の回転運動を発現すると同時に, 開口速度のコントロールであることが明らかになった.
- 1990-04-25
著者
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