4-nitroquinoline 1-oxide誘発ラット舌癌におけるp53の発現について
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概要
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発癌の過程には複数の癖遺伝子や癌抑制遺伝子が関与し, これらの遺伝子変化の蓄積によって癌が発生することが明らかにされている。その中でp53遺伝子は, その産物がDNA型腫瘍ウイルスSV 40のT抗原と特異的に結合する53 kDaの蛋白質として同定された。野生型p53遺伝子は, 細胞のトランスフォーメーションを抑制する機能を持つ癌抑制遺伝子であるが, 変異型p53遺伝子は, 活性化rasとの協同作用により細胞をトランスフォームさせる能力を持ち, 細胞の癌化に深く関与している。このような異常は, 口腔扁平上皮癌をはじめとする多くの癌で報告されている。またp53遺伝子の異常や蛋白の過剰発現は, 癌組織で報告されているだけでなく, 異型上皮や過形成上皮でも報告され, 前癌状態ですでにp53の異常が生じていることが示唆されている。そこで本研究では, 発癌過程のどの時期でp53の異常が生じているかを明らかにする目的で, 4-nitroquinoline 1-oxide (4NQO)による舌癌発生モデルを用いて, in vivoにおけるp53陽性細胞の推移を, 免疫組織化学的および免疫沈降法により検討した。材料および方法: 4NQO投与開始後4週, 8週, 12週, 16週, および20週にSD系ラットをそれぞれ10匹ずつ, 4%PFA 溶液で灌流固定した。さらに, 舌を切除し同固定液にて4℃, 6時間浸漬し, 通法どおりパラフィン包埋した後, 厚さ3μmの切片を作製した。脱パラフィン後, 1次抗体として抗p53モノクローナル抗体(clone Pab 240)を反応させ, LSAB法で免疫染色した。切片をヘマトキシリンで対比染色し, 脱水, 透徹, 封入後観察を行った。光顕写真上で上皮細胞を4000個以上観察してp53陽性, 陰性の判定を行い, 陽性細胞の百分率をp53陽性率とした。各週齢群における2群間の検定には, Mann WhitneyのU検定を用いた。また, 舌腫瘍組織を未固定のままホモジナイズし, RIPA bufferでタンパク質を可溶化し, 抗p53モノクローナル抗体(clone Pab 240)で免疫沈降法を行った。その後免疫沈降物は, 10%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い, PDVF膜に転写後, ECL法で発色した。結果および結論: 抗p53モノクローナル抗体による免疫組織化学的検索で, p53陽性細胞数は腫瘍の増殖と一致し, 4 NQO 投与開始後0週から4週まで, および8週から12週の間に有意に増加した(p<0.01)。組織学的には0週から4週では変化がみられなかったのに対し, 8週から12週では過形成上皮や異型性上皮が観察された。Pab 240による免疫沈降法では, 4NQO投与開始後16週と20週で変異型p53が認められた。これらの結果から, p53は発癌過程の非常に早い時期から出現することが明らかになった。また, 形態的な変化のない上皮でのp53の過剰発現は野性型であるのに対し, 過形成上皮や異型性上皮でのp53の発現は変異型であることが示唆された。
- 1997-06-25