日本金型産業における企業内国際分業と技能の国際移転 : 在台湾、タイ、フィリピン、インドネシア日系企業の事例から
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概要
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本論文の目的は、金型産業における企業内国際分業と、海外子会社への技能の国際移転を明らかにすることである。金型産業は、熟練が必要とされるために海外進出が困難であるとこれまで考えられてきた。その金型産業が、なぜ海外進出を行なえるようになったのか。そして、同産業の海外展開のパターンとはどのようなものなのか。この双方の問題を明らかにするため、本論文は国内の金型生産現場における歴史的な技能変化に注目した。日本金型産業においては、新技術が導入されることによって、歴史的に生産現場の技能が変化してきた。同時に、金型産業における競争優位の源泉が、機械加工や仕上げ工程から設計工程へとシフトした。これらの結果、設計、加工、仕上げ各工程の工程間分業が極端に進み、機械加工や仕上げ工程における技能のほとんどが標準化された。その一方で、継続的に必要な技能もあった。新技術の導入に伴って、金型産業では、二つの技能とは異なる新しい技能が歴史的に生まれてきたと考えられる。本論文では、こうした分析結果を踏まえて、金型産業における新技能創造プロセスと国際化という分析枠組みを提示した。海外子会社への聞き取り調査の結果、工作機械やマニュアルに標準化された標準技能は、容易に海外子会社へ移転されるようになったことが明らかになった。また、海外子会社において、進出前には意図していなかった効果が得られていた。つまり、国際化が新しい顧客との取引をもたらし、受注可能な金型の範囲を広げることが出来たのである。一般的に日本の金型産業ではユーザーの特定化が見られたが、本論文で取り上げた金型企業は、海外子会社を設立することによって、新規の顧客を獲得していた。それらの企業は、新しい顧客との取引の中で従来とは異なる成形情報を蓄積させ、その技術能力を高めることが出来たと考えられる。したがって、事例対象企業3社に共通しているのは、国際化や自動化を通して、新たな競争優位の源泉を得ていたことである。本論文の主なメッセージは次の二つである。金型産業は、新技術導入と顧客との取引によって、歴史的に新しい技能を創造してきた。その結果、標準化された技能が容易に海外子会社へ移転されるようになった。そして、国際化による新しい顧客との取引によって、こうした新技能創造プロセスが更に促進されたのである。
- 2004-09-30