海水環境における大腸菌の増殖と耐塩性誘導
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概要
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非好塩性細菌である大腸菌(Escherichia coli ATCC-9637)を用いて, 海水環境下での菌の増殖及び耐塩性誘導とその保持について, 天然海水の代わりに組成成分の明確な人工海水を使用し検討した。2.5倍濃度の人工海水に酵母エキスを加えた培地では, この大腸菌株はほとんど増殖できないが, 通常濃度の人工海水であれば十分に増殖できることが分かった。さらに, 通常濃度の人工海水に酵毎エキス(1%)を添加した培地で, 30分間前振盪処理をすることによって, 無処理では増殖の観察できない2.5倍濃度の人工海水中でも菌増殖が可能となる耐塩性が誘導された。このような耐塩性の誘導には, 培地の人工海水濃度が通常の1/2〜1付近が最も効果的であること, さらに酵母エキスを必要とすることが分かった。このことは, 淡水性の大腸菌が河口周辺または海水環境下で酵母エキスのような有機物の存在があれば, 耐塩性が誘導され, より高濃度の塩分環境に適応出来ることを示唆している。誘導された耐塩性は, 有機物なしでも人工海水中に低温下で菌体が保存された場合は, 少なくとも2週間はほぼ完全に保持されそれ以降次第に消失することが分かった。耐塩性の保持に有効な人工海水の成分を検討したところ, 浸透圧を維持するNaC1とMgイオソ及びCaイオンの共存が必要であることが分かった。一方, 純水中で菌体を保存した場合は, 耐塩性は1週問でほぼ消失したが, 平板培養法で観察した生菌数はわずかの減少しか見られないことから, 耐塩性の消失と菌の死滅は別個の機構によると考えられる。
- 日本微生物生態学会の論文
- 1996-12-31