大聖堂の高みへ : 『イタリア絵画史』の一挿話から『赤と黒』に至る青年像の変遷
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概要
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『イタリア絵画史』(Histoire de la peinture en Italic, 1817)はスタンダールの最も早い時期の著作に属し,13世紀末から16世紀半ばに至るまでのイタリア絵画の歴史をたどり,ルネッサンスという概念の構築に貢献した書物のひとつとされている.本稿では,この書物の注の一挿話ときわめてよく似た状況を描いた場面が『赤と黒』(Le Rouge et le Noir, 1830)第1部に見出されることに着目し,スタンダールの小説の中心的なモチーフである情熱的な青年像の展開について考察する.スタンダールの初期の美術評論と後年の小説群とを開連づける試みとしてはフイリップ・ベルチエの研究が代表的なものとして挙げられるが,従来主として論じられてきたのは,やはりルネッサンスの画家であるコレッジオの画風をそのまま人物像に写し取ったと作者自らが主張する,『パルムの僧院』(La Chartreuse de Parme, 1839)のほうであり,『赤と黒』をその観点から検証した研究は皆無に近い.本論考は,あえてジャンルの枠をこえてスタンダールの美学的考察を小説内の人物造形の問題と連関させることにより,『赤と黒』という作品に新たな光をあてることを目的とする.
- 2003-10-21