臨終行儀における「息絶ナン後」(6. 遺体をめぐる感情と生命倫理)
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概要
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日本仏教の展開の中で、看取りは早くから問題視されてきた。それは"臨終行儀"という形で連綿と伝わっている。臨終行儀とは、臨死の経験を基に作成された、臨死者個人および周辺集団の理想化した死の用意ということができる。それは、厳密な施行に固執したものではなく、庶幾実現のための心理的・動作的対応のことである。臨終行儀の基本には親しい者による看取り空間を設置することがあげられ、臨死者単独で臨終に対処させないという配慮が見られる。そして平生からそのための準備を行ない、臨終行儀から引き続いて葬送を行なうといった、看取り→葬送の連続と、看取り集団の連続的関与が重要な意味を持っていたのである。その意味で臨終行儀とは単に死ぬ瞬間に限定されるものではない。そこでは臨死者の自律的な死の対処が促され、臨死者の意志を尊重し、それを標榜しようとしたことが知られ、平生からの死への積極的対峙の心情がうかがえる。看取る側の介護観念も、普段の「親しいもの」による看取りとして、生・死の明確な境界認識の無いまま葬送儀礼まで続く。生前の意志(行為)を重視する姿勢と、看取ったものが死者の対応をする事実は、看取りと葬送、ひいては病気観と遺骸観に、より複合的な構造を持たせたのである。
- 日本生命倫理学会の論文
- 1993-07-20