遺伝病差別の周辺(第8回日本生命倫理学会年次大会セッション「遺伝子・生殖」)
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概要
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私は女子短大生に、講義で若干説明した後、1.「私のうちは両親とも健康で、血のつながったものも全て健康である。従って私に悪い遺伝子はない。」2.「遺伝病のヒトが全部子どもを作らないようにすると、地球上から遺伝病のヒトはいなくなるはずである。」と言う質問をした。1.の正解率は254/377(67.3%)で、2.の正解率は314/377(83.8%)であった。この事実は、-つ-つの疾患の「良い悪い」の判断は、誰が何時どのような権限で行なうことが出来るのか。遺伝病は全部なくさなければいけない「悪いもの」であるか。「人為的淘汰」によって遺伝病はなくすことができるか。人工妊娠中絶を社会が強制する必要があるか。そうした問題は当事者である患者本人を含めた社会一般の人の意見を聞かないで、専門家と役人だけで決めてよいものなのか、などという現在の人類遺伝学者が避け、議論しない「生命倫理学」の課題に対し「優生思想」の根深さを示している。優生思想は、1885年にイギリスのゴールトンが提唱した概念で「人類の遺伝的素質を改善することを目的とし、悪質の遺伝形質を淘汰し、優良のものを保存することを研究する学問でヒトラーが悪用した」。ヒトゲノムの研究者は同じ轍を通ってはならない。
- 1997-09-08