生命倫理問題の臨床民族誌的アプローチ : 精神科臨床の事例から
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概要
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精神科における患者の意思とはしばしば多義的多層的なものである。本事例の被害妄想を持つ患者の意思も両価的なものであり、当初から強く医療を拒否すると同時にある種の依存を感じさせるものだった。通常の生命倫理的な評価によれば、この患者は、被害妄想による自律あるいは心理的能力低下が疑われ、非自発入院が正当化される可能性が高い。しかし本事例では、入院への導入に際し、長時間にわたる本人、家族、医療者の面談を行い、それぞれが自らの主張や経験を語り合う過程を経ることによって、患者の入院への部分的な受容とも思える変化を得ることができた。この決定の過程は、必ずしも医療者による原則論的な判断の導出過程ではなく、むしろ臨床民族誌的な視点を持ち、経験レベルでの認知や交流を促し問題そのものの再構成や流動化を促すものであると考えられる。
- 日本生命倫理学会の論文
- 1998-09-07