マレーシアにおける教育改革とイスラーム化政策 : 価値多元化への対応をめぐって (<特集>価値多元化社会における教育の目的)
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概要
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マレーシアはブミブドラ(マレー系およびその他の先住民族), 中国系, インド(タミール)系)で構成される典型的な多民族社会としてよく知られている。同国の近年の教育改革にはイスラーム化の要因が認められ非常に興味深い。マレーシアはイスラーム化を通して多民族社会の統合を目指しつつあると言えるかもしれない。イスラームの中心にある「タウヒード」は神の唯一性を意味するとともに, 全世界および全ての生の「ー化」をも意味する。イスラームに則した普遍的な諸価値を追求し, それを国民教育に内化しようとする努力はユニークであり, 他の国の戦略とは対照的である。本稿では1996年の新教育法および初等・中等学校の統合カリキュラムに焦点を当てて, マレーシアの国民教育におけるイスラーム的価値の浸透に関して検討を行う。1996年教育法の教授用語, 道徳教育, 宗教教授に関する規定を分析すると, イスラーム的価値の浸透に関するいくつかの洞察が得られる。イスラーム的な見方は中等教育から高等教育に至る主要な教授用語であるマレー語を通して, 非ムスリム(イスラーム教徒)の生徒にもたらされる。マレー人はイスラームの宗教を信仰し, 日常的にマレー語を話し, マレーの慣習に従う人として定義される。多くのアラビア語の語彙がマレー語の中に取り込まれ, また, 本来のマレー語の言葉も15世紀以来のマレー社会のイスラーム化の過程で, マレー・イスラームの価値体系の中に位置づけられてきた。非ムスリムの生徒のための道徳教育が1980年代に導入された。ムスリムのためのイスラーム知識の教科の時間に非ムスリムの生徒に対して教えられた母語(民族語)は, 道徳教育に置き換えられた。これはイスラーム教育の教科が民族カテゴリーから解放されたことを意味する。初等・中等学校の統合カリキュラムにおいては, 16の純粋な価値(徳目)が強調されている。これらの価値は普遍的な性格を持つが, イスラームの信仰の中核にある「正義」と「感謝」がマレー語化されたアラビア語の言葉で書かれている点が注目される。教育の目的はイスラーム的な一化のもとに西洋の近代的な価値とマレー社会の伝統的な価値との混合物として定義されている。そのことは, 用語法に示されており, マレー語, アラビア語, 英語の用語を思慮深く精妙に混ぜ合わせている。究極の目標はアラビア語の「インサーン」,すなわちイスラーム的な人間を作りだすことであり, それは人間発達に関する西洋的な理論に基礎づけられる。マレーシアの政治的指導者たちは民族的な多様性と価値の多元性はイスラーム化を通して統合され一化されるべきであり, 教育のシステムもこの究極的な目標に方向づけられねばならないと信じ,またその方向を期待している。
- 1997-09-30
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