価値多元化社会における教育的価値 (<特集>価値多元化社会における教育の目的)
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概要
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本稿のねらいは価値多元化社会の出現によってさまざまな影響を受け, 困難に直面している現代の教育学が取り組むべき課題に、以下の観点から見通しをつけることである。すなわち、(1)価値多元化の意味と実体、(2)教育的価値の内容、(3)価値の多元化現象と教育的価値の関係、(4)学びの教育的価値とその展望、に関してである。まず、価値多元化の問題的状況として、それぞれの価値は互いに闘争しあい、孤立することがさけられない。ところが、この傾向は絶えず変化している事態に対応できるようにもし、個人の行為の際の選択の自由度を拡大する。これは結果的には自己実現の機会を多くすることになるが、価値がますます拡散し続けていくことに歯止めをかけられないと、教育の危機が生み出されてくる。次に、価値の多元化現象は情報化社会によって助長し正当化されている。こうした情報化社会は、生き方や人生観や価値観が相違するはずの個々人を一般大衆へと変質させて、彼の自己形成に大きな影響力を行使していく。問題は情報の質であり、より多くの新しいことを知ることが必ずしも価値意識を形成することには結びつかない。第三に、教育的価値の内容と形式を問わねばならない。それは教育の本質や目的を根拠づける価値であり、また教育実践に組み込まれて、教育を深化・充実させるための価値でもある。こうした二重の意味を常に同時に含みながら、教育的価値はいわば教育実践を方向づけうるものである。そうした教育的価値を価値多元化社会において問うと、教えることの価値と学ぶことの価値の正しい関係を考察する必要が出てくる。そして教えることから学ぶことへと教育的価値の意味を転換することが要求されよう。最後に学びの教育的価値を、学びの目的性との関係で明らかにする。そこでは学びが自己による自己自身の変化を生み出す行為であると理解される。この時に不可欠なのが価値を判断するときの規範である。
- 日本教育学会の論文
- 1997-09-30
著者
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