大腸菌の細胞分裂に関与する酵素系 : 隔壁ペプチドグリカン合成酵素
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概要
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細菌という最も簡単な細胞でもその分裂過程には多くの酵素や蛋白質や,制御因子が関与している。これらの中で,大腸菌のペニシリン結合蛋白質3(PBP3と略す)は,その活性が明らかにされた最初の,そして唯一の酵素である。PBP3と,最近見出されたFtsW蛋白質が共同して隔壁ペプチドグリカン(隔壁の基礎構造)を作ると思われる。FtsW蛋白質は大腸菌の染色体上で,PBP3の構造遺伝子ftsIの近傍に見出されたftsW遺伝子の生産する疎水性の蛋白質で,それ自身酵素ではないが,PBP3と結合して細胞質膜上で隔壁ペプチドグリカン合成酵素活性を発現していると考えられる。本論文はin vitro(無細胞系)の隔壁ペプチドグリカン合成活性の測定によってPBP3とFtsW蛋白質の共同的な酵素作用機構を示したものである。方法としては,PBP3とFtsW蛋白質の両方,及びそれぞれ一方だけを大過剰に生産する大腸菌株を遺伝子工学的に作製し,それらの細胞から音波破砕により細胞膜面分を調製してペプチドグリカン合成活性を測定した。するとPBP3とFtsWの両者を過剰に生産する株の膜画分は活発にペプチドグリカンを合成したが,この二つのうちの一つだけを過剰生産する菌株の膜画分ではこの活性は低かった。またここで注目すべきことは,強いペプチドグリカン合成活性を示す前者の膜画分はペプチドグリカン合成の前駆物質であるリピド中間体(ウンデカプレノール・ピロリン酸・糖ペプチド)を多量に生成したことである。次にPBP3とFtsW蛋白質のそれぞれ一方のみを過剰に生産する菌株の細胞をまぜ合わせて膜画分を調製すると,この膜画分は二つの蛋白質を過剰生産する細胞の膜画分と同様に高いペプチドグリカン合成活性と,リピド中間体の高い蓄積を示した。これらのことはFtsW蛋白質がリピド中間体の生成に何らかの正の作用を及ぼし,PBP3に適切な前駆物質を供給して隔壁の生成を行わせる機能をもつ可能性を示唆している。
- 東海大学の論文
- 1992-03-30
著者
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パンクルシナ A.n.
Institute Of Applied Microbiology University Of Tokyo:department Of Biological Science And Technolog
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松橋 通生
Institute Of Aapplied Microbiology The University Of Tokyo
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正人 池田
Institute of Applied Microbiology, University of Tokyo
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松橋 通生
Institute Of Applied Microbiology University Of Tokyo:department Of Biological Science And Technolog
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正人 池田
Institute Of Applied Microbiology University Of Tokyo