インド合同家族論再考 : 南インドの村落研究からの展望
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概要
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インドの伝統的な家族は,合同家族であるといわれている。同じようにインドの伝統といわれてきたカーストや村落共同体の「伝統」に,イギリス植民地支配や西洋のオリエンタリズムが少なからぬ影響を与えてきたことが明らかにされてきている今日,アーリアンの時代からの伝統といわれる合同家族の「伝統」も,改めて見直される時期にきていると思われる。本稿目的は,タミルナードゥの事例に基づいて,合同家族の「伝統」について再検討し,それをとおしてインドの合同家族論を再考するための新たな視点を模索することにある。第1章では,植民地行政によって合同家族の「伝統」が承認され制度化された過程が,第2章では,タミルナードゥの一村落で現地語の家族概念クドゥムバンをもって体験されている合同家族の「伝統」が検討される。第3章では,合同家族の「伝統」の意味を充分に吟味することなく,近代家族や核家族の対立概念としての合同家族概念をもって,インドの家族を論じてきた従来の家族論が,インドの家族の重要な諸側面,すなわち,1)タミルナードゥのクドゥムバンにみられるような,合同的な家族関係の在り方そのものの地域的特徴,2)近代国家における家族実体化,3)インドの家族の近代家族としての側面などについての理解を妨げてきたことが論じられる。最後に指摘されるのは,インドの家族研究が,西洋とインドが相互に自己像を形成するなかで,インド型の家族イデオロギーとして確立された合同家族イデオロギーに捉われるとともに,自らそれを強化し再生産するのに寄与してきたことである。インドの家族研究は,この事実を踏まえて,再構築されなくてはなるまい。