裁判における知的障害者の証言能力をめぐって:サン・グループ事件のたたかい<報告>
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概要
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知的障害者を多数雇用していた滋賀県内の会社が長年にわたって年金横領などの不正,虐待などの人権侵害を行っていた事件について,被害者の元従業員と死亡者の家族は,加害者の元社長の責任だけでなく,労働基準監督署などの公的機関や金融機関の責任を問う民事裁判を提訴した.裁判においては,知的障害者の証言能力と意思能力(理解力)の関係が問題となった.筆者は証言能力と意思能力は別の能力であること,原告らの発達段階はピアジェの「直感的思考」段階に相当し,〈9歳の節〉を越えていないので,体験したことを記憶し語ることはできるが,抽象概念を理解したり,体験していないことを予測したり推論して述べることはできないと判定した.年金裁判は,勝利的和解となった.国家賠償裁判の判決は,知的障害者の証言を採用し,直接的暴力だけでなく,精神的苦痛と人格権の侵害を認め,行政の義務違反,不作為の罪などを認めた画期的なものであった.