精神科医臨床をふり返って
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概要
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7月末,本紀要編集委員の方から,突然この題で随筆か評論をとのお話があった時,一瞬とまどったものの,結局御要請におこたえすることとなった。今年3月,千葉大学医学部を停年退官するにあたって,最終講義として,"精神分裂病を見る眼--個人史的戦後精神医学史"と題して,若千本紀要編集委員の方からの御要請と重なる話をさせていただき,その大要を千葉医学雑誌などに書くことを約束している。そこで本橋は,これらとなるべく重複しない内容・形式で筆をとらせていただくこととした。最終講義は,わたくしが千葉大学精神科教室に入門した1948 (昭和23)年10月のことから話を始めたが,本橋はそれ以前わたくしが生れた時から書き始める。その理由の一つは,最終講義の内容と重ならないためでぱあるが,更に大きな今一つの理由がある。今精神医学は世界的規模でも大きな曲り角にたっているといわれている。これまで医学の片隅におかれていた精神医学が,一方ではにわかに大きくその役割を医学の中で求められて来ていると共に,その領域も又大きく広がり,そのためこれへの対応に共通の方向を模索し,苦悶している。いわば交錯する光と影の谷間で,精神医学はいわゆるidentity crisis に陥っているともいわれている。そのため世界各国さまざまの立場の精神科医夫々の,今日の情況のうけとめ方,対応の仕方を,定められた形式で述べてもらい,これを編集した本も出されているのである。この本で筆者たちは,前半自分の生い立ちを,後半精神医学の現状へのとりくみと,将来の展望をのべる形式をとらされている。精神医学の領域では,自え方の方向にもその生育歴が,一つの要因となりうると考えられたからでであろうか。本稿も,一精神科医の一つの考えを,この形式になぞらえて述べさせていただこうと試みだのがそれである。
- 千葉県立衛生短期大学の論文