自治体人事行政に関する一考察
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概要
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論説本稿は自治体人事行政の現実を考察することを目的としている。自治体人事行政の有様については、これまで周知の通り、能力主義が十分に機能しておらず、年功序列が支配的であると考えられてきた。しかし、近年、これとは別に、稲継裕昭が、積み上げ型褒賞システムが機能していることにより、相当の昇任年齢差及び給与差が生じていると主張するようになった。果たして、研究対象が同一にもかかわらず、相違する見解が存在することをどのように解すればよいのであろうか。この疑問を解決するために、筆者は、「平成10 年地方公務員給与の実態調査」等の客観的な資料に基づき、考察を行った。その結果、筆者は次の結論に達した。自治体人事行政は基本的には年功序列であるが、しかし、それは完全なものではなく、昇任過程において選抜行為が存在しており、定年までには一定の昇任差が生じている。そして、その昇任差に基づいて相当の給与差が生じている。それでは、この昇任差を決定するものは何か。地方公務員法では自治体職員の任用は成績主義でなければならないことが定められているが、本稿における考察の結果、自治体職員の任用は成績主義に基づいているとは言い難く、昇任を決定する要因は、人事権者による主観的な評価であり、かつ、その評価は基本的に過去からの連続性を持たない現在(=リアルタイム)を中心としたものである。これを筆者は本稿において「主観的かつリアルタイムの評価システム」と表現する。そして、筆者は成績主義が十分に機能していない人事行政は、能率的な行政運営の実現及び公共の福祉の増進に潜在的な問題を生じさせているとの認識を持ち、この問題を解決するためには、十分な調査研究をした上での成績主義の強化が必要であることを主張する。
- 同志社大学の論文