批判的思考力を育てる教師教育教材の開発と実践 : 「障害がある」・「障害をもつ」の是非をめぐって
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概要
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民主主義社会における主権者育成を担う教師は,「それは本当に事実なのか」と真偽を正し,事実を究明する姿勢,自らの在り方や行為を自省する姿勢が欠かせない.批判的思考力とは,そうした姿勢を支えるものである.特に,情報過社会の今日にあっては,教師にこの批判的思考力が強く求められるのである.それゆえ,教員養成においても学生に対して批判的思考力を培う教育を実施する必要がある.本論稿では,批判的思考力を育成するための教材開発並びに実践について論述する.具体的には,筆者自らが遭遇した「障害がある」・「障害をもつ」という言葉使用の是非をめぐる議論をもとに,批判的思考力を培い批判的態度形成を促す教材を作成し,この教材を用いた講義を実施した.すなわち,「障害がある」が正しく「障害をもつ」が不適切とする文章が書かれたアンケート(様式1)と「障害をもつ」が正しく「障害がある」が不適切とする文章が書かれたアンケート(様式2)を準備するが,受講者には二種類の様式があることを伏せたまま半分ずつ配布し回答を求める.いずれのアンケートにも回答者に適切・不適切の記述に対する見解を求めている.回答終了後,受講者には自己の見解を発表させる.実践の結果,受講者はアンケートの見解に比較的従順に同意する傾向が確認できた.それゆえ,各々が自己の見解を発表していく過程で,「障害がある」・「障害をもつ」の言葉使用に対する対立的な見解が示され,それぞれの見解は正当性を持たせるための理由付けや根拠が提示されていた.この段階に至り,筆者は,アンケートのトリックと真のねらいを説明して,受講者に感想や意見を記述させた.アンケートの文章に左右された受講者は,自省的・反省的になり,批判的思考力や批判的態度の必要性を感じ取っていた.