子会社方式によるシェアードサービスの導入 (山口操教授退任記念号)
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概要
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近年シェアードサービスを導入する企業が増加している。シェアードサービスとは,社内または企業グループ内で分散して行われている間接業務を,ある社内部門または子会社に集中して標準化し,一元的に処理を行うというマネジメントの手法である。欧米企業だけではなく,日本でも1999年から2001年にかけて多くの企業がシェアードサービスを導入している。本稿では,シェアードサービスの基本的形態であるタイプa)「本社の一部門に業務を集中する形態」と,タイプb)子会社に業務を一元化する形態」について比較し,タイプb)を成功させるための要因について検討した。シェアードサービス導入の本質的な目的は,業務の標準化にある。シェアードサービスは,標準的な有形財の大量生産の概念を間接業務に応用した,新しい間接業務の管理手法である。業務の標準化を前提としたうえで,会計的な目的としてコスト削減と利益獲得のうちのいずれかを選択し,それに応じた組織を構築することになる。コスト削減目的ではタイプa)が,利益獲得目的ではタイプb)がシェアードサービスの組織形態として適している。しかし,タイプb)の子会社方式によるシェアードサービスの導入には以下の問題点が存在する。第一に,利益の獲得が大前提になる。第二に,初期投資が大きい。第三に,転籍・出向に伴った労務問題が発生するおそれがある。第四に,顧客層をグループ外の企業に広げると,個々の顧客ごとにカスタム化されたサービスを提供せざるをえなくなり,業務の標準化による低コスト・高品質というシェアードサービス企業の強みが失われてしまう。子会社を設立することで後がないところに構成員を追い詰めて甘えを捨てさせるということが,子会社方式のシェアードサービスを実施する理由として示されることがあるが,不確実性が大変に高く,子会社設立というリスクを説明できる力はない。それよりは,利益を生み出す仕組み(ビジネスモデル)作りを子会社の設立時から行い,それを明確なビジョンとして構成員に伝える努力が重要になる。さらに,ターゲットとする顧客層をグループ内部とグループ外部に区分し,それらに提供するサービスの内容をそれぞれ別個にすることが望ましい。グループ内部の顧客に対しては,本来の強みである標準化した業務の処理を行い規模の経済を享受する。それに対して,グループ外部の顧客に対しては,個々の顧客にカスタマイズした業務を行うのではなく,業務の標準化の手法,すなわちシェアードサービス導入の方法をコンサルティングとして販売することが提案される。
- 慶應義塾大学の論文
- 2001-08-25