会計と保険 : リスク・コストの会計学上の扱い (前川寛教授退任記念号)
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概要
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本稿は,会計学がリスクに対しどのように対応してきたのか,また,その論理は何かを考えたものである。リスクに対応する手段として企業は保険を掛ける。この結果,保険差益が出る。これを,財務諸表等規則はその他の資本剰余金としている。一方,商法は資本を株主の拠出資本に限るから,利益となる。しかし,利益とすれば,受取った保険金が処分可能となるので,保険を掛けた目的が達成されない。一方,実務は,商法に依らざるを得ず,これを避けるには,積立金として留保する必要がある。しかし,この処理をすると,損害を受けなかった場合と比較し,維持される金額が増加し,損害を受けた方が有利という不思議な結果になる。一方,資本利益率が低くなるから,この面で不利となる。このような状況を分析しつつ,結局,圧縮記帳(直接減額方式)を推奨する。このような処理の合理性を更に考えるためには,会計学の目的は何かをを明らかにする必要がある。本稿は,動態論つまり比較可能利益の計算を第一の目的とする立場にたって,リスク全般への対応問題を考えた。その結果,各期間は均等にリスクを負っているのだから,各期間がこれを負担しなければならない。いわゆる自家保険引当金の設定である。しかし,ある期が引当金を超える損害を受けたときには,この損失を繰越(資産計上)し後期に負担させる必要がある。すなわち,引当金も繰延資産も本質は同じである。そして,この処理は,危険のための投下資本の金額も相対的に均衡させるから,リスク費用の期間配分と相俟って,リスクの現実の発生が資本利益率の著しい変動にも作用せず,企業のリスク対応の状況を示す。このように考えると,保険差益は企業がリスク費用を負担した結果の偶然の産物つまり費用の調整項目であり,資本とする解釈は出てこない。また,資本利益率への作用を考えると,該当(保険で補填された)資産の評価勘定と解すべきである。
- 2001-02-25
著者
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