インベスター・リレーションズとコーポレート・ガバナンス
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概要
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日本でも近年,企業によるIR活動が着実に高まっている。年々アナリスト向け説明会の実施率は着実に上がってきている。但し,説明を受ける側のアナリストやファンド・マネージャーの満足度は必ずしも高いものではない。英米企業では近年,機関投資家が発言力を増し,株主利益を重視する株主主権論が繰り広げられた結果,IR活動はトップ・マネジメント自らが率先して行っており,経営の最優先課題の一つにもなっているところが多い。その結果として今日の株主文化が築かれたが,一方では過度な拝金主義を生み出し,極端な富の偏在の問題を巻き起こしている。そうした中で,企業側の過度な株主利益追求に対する反省の気運も出てきている。その一つが昨年春に発表されたブレアースタウト両女史によるチームプロダクション理論に基づく階級調停モデルである。現業(日常企業経営)はすべてCEO(最高経営責任者)と他のオフィサーが担当する一方で,取締役会の主な役割は利益配分などに関してすべてのステークホルダー間で解決できない問題の最終調停を行うこととしている。日本でも執行役員制度を設けている企業が出現しているが,そこでの役員は法律上,従業員レベルの延長線上の身分でしかなく,米国のオフィサーとは「似て非なる者」と言えよう。責任感を持った経営を実行させるためにも商法上での認知が必要であると考える。一方,国家経済を支える銀行のガバナンスは金融システム安定維持の観点からことさら重要である。株式等のリスク商品の保有と取扱いに関しては,各行の資本力や内部管理体制に応じて,旗艦的銀行ではなく系列会社において認められていくべきであろう。ガバナンスは,企業の繁栄と永続性が基本である。全体のステークホルダーの利益を考えてこそ繁栄があり,その中での株主の位置づけは各企業独自のポリシーの問題である。
- 1999-04-25