市場創造と中小企業の新パラダイム (佐藤芳雄教授退任記念号)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
現在,中小企業は戦後最も重大な岐路にさしかかっている。中小企業にとって今後の発展方向をはっきりと見極め,大胆に変革を進めることが必須となっている。中小企業は戦後,量産型中小企業(テイラー原理に基づく分業編成と専用機により,互換性ある部品や均質な製品を効率よく生産する中小企業),ソフト型中小企業(ソフトな経営資源とME技術によりフレキシブルに多品種少量生産を行う中小企業),開発志向型中小企業(独自の開発力を持ち,製品・技術開発を経営戦略の要とする中小企業)へと発展してきた。ソフト型中小企業,開発志向型中小企業への発展により中小企業は独自の生産技術,開発力を持つことになり,大企業から技術面での自立化を達成した。だが,市場面での自立化はこれに追いつかず,大企業の領導下で中小企業が利益の分け前を得るという仕組みは継続した。今,この仕組みが崩れ,中小企業は市場創造型中小企業(潜在ニーズを基に市場創造する中小企業)へと脱皮しなくてはならなくなった。そのためには,現在拡大しつつあるカスタム・メイド型多品種少量生産(非定型的ニーズを専門技術で満足させる業態)をドメインとし,企業構成員のマンパワーを発揮させる人間中心型経営の推進,専門技術を持つ中小企業による専門企業連合の形成が必要である。市場創造型中小企業への発展は「中小企業は市場創造の主体である」,「中小企業は新しい産業構造と産業組織形成の主体である」,「中小企業は自己実現の場である」,「中小企業は経済民主主義推進の主体である」という中小企業パラダイムを形成することになろう。市場創造型中小企業への発展は一直線には進まないが,発展の客観的基盤は存在し,中小企業の新パラダイムは実現するであろう。
- 慶應義塾大学の論文
- 1996-02-25