中小企業の「競争・協調」理論の新パラダイム (佐藤芳雄教授退任記念号)
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概要
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現在あるいは今後の中小企業に関わる諸問題を考えていく上で,「産業組織の史的展開」の中での現状把握を試みた。具体的な作業としては,戦後の我が国における企業間「競争・協調」の変遷と中小企業研究者の問題関心・問題設定の変遷を,(1)高度成長期(第1次石油危機まで),(2)第1次石油危機以降1980年代末まで,(3)1990年代の3期に分けて概観し,「規模の経済性」「垂直的統合の経済性」「範囲の経済性」「経営資源の『流動化』」の4つのキーワードで整理した。中小企業研究者の問題関心も,時代を経るに従って変化してきた。高度成長期には「中小規模」そのものが問題視された。低成長期には,厳しい競争を経て独自の技術・経営力を持った中堅・中小企業の存在を前提として,大企業をも含めた「システム」の中で中小企業がとらえられた。そして現在,国際化・情報化の中でさまざまな経営資源が国・地域・企業の枠を超えて「流動化」しているなか,企業はどの経営資源を自社内に取り込み,どの経営資源を外部に依存するかをめぐって模索を繰り返している。今後しばらくの間,企業は模索しながらも一定の「企業範囲」に特化し,局面に応じて不安定な「競争・協調」を繰り返すことになるだろう。
- 慶應義塾大学の論文
- 1996-02-25