中小企業政策の新しいパラダイム (佐藤芳雄教授退任記念号)
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概要
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中小企業の現況についての認識の多くは,産業空洞化など日本経済の構造的転換が中小企業において表れた現象であるというものである。しかし,筆者は,中小企業の現状を戦後形成された中小企業の存立の諸枠組み,「戦後中小企業構造」の「解体」過程だと理解する。そうした過程における中小企業政策の現実の基本的方向は,<経営基盤の強化という中小企業政策の基本を維持しつつ,経済社会の活力基盤としての中小企業の維持・育成という産業政策としての中小企業政策の役割も踏まえ,新しい時代環境に積極果敢に挑戦していくバイタリティのある中小企業を支援する政策を積極的に展開していくことだ>とされている。具体的には,「新分野進出」・「創業」を軸とする政策である。しかし,そのような施策のもとにおいては,中小企業は直面している諸困難を乗り越えておらず,現実に大きな影響を与えている大企業の経営戦略的な行動は客観的な構造的変化と見なされ,中小企業は既存分野での存立を放棄しない限り積極的な政策対象とはならず,なおかつ,中小企業政策自体も大企業への諸施策に比較して不十分である。さらに,規制緩和が,中小企業の「ビジネス・チャンス」になるかどうかもなお疑問であり,消費者政策や環境政策の展開も中小企業に対し新たな政策課題を投げかけている。このような中小企業と中小企業政策の現況は,「戦後中小企業構造」を支えてきた政策,すなわち,大企業に期待・信頼・政策効果の中心をおく政策が引き継がれていることの限界を示しており,今後の中小企業の展望はそうした政策の観点からの訣別が必要であり,「競合」・「参入」・「新生」のおける「競争ルール」の公正を確立すべく政策の実施が重要となろう。
- 慶應義塾大学の論文
- 1996-02-25
著者
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