21世紀の社会保障の課題 : 高齢者介護保障をどう構築するか (藤澤益雄教授退任記念号)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
生活を脅かす個々のリスクに対して普遍的な対策を講じることにより,公的扶助への依存を減らすことが,豊かで安心できる生活を保障するための条件である。この点,介護リスクに対する普遍的な保障制度の確立が,今日の最大の課題である。北欧諸国は,行政サービスを強化することによって,高レベルの高齢者福祉を達成することに成功している。一方,職域の社会保険で医療や年金を整備してきたヨーロッパの大陸諸国では,社会福祉は地方政府が担う選別的な制度として位置づけられてきた経緯があり,普遍的な高齢者福祉制度の新たな創設が課題になっている。たとえば,オーストリアは1993年に税方式による普遍的な介護手当制度を導入し,ドイツは1995年に介護保険制度を創設している。イギリスも,ケアマネジメントの仕組みを取り入れ効率的なサービス提供に取り組んでいる。ここでは,これらの国の介護政策の動向と課題を検討しつつ,日本の介護保障政策のあり方を考察する。日本では,福祉サービスが質量ともに不足していて,これを確保するには現物給付方式を基本に据えることが重要である。住民の福祉に対する権利意識を育てるには,税方式よりも社会保険方式が有効であろう。自治体の経営能力を住民とともに訓練する場として,介護に特化した,自治体から独立した保険者を持つことも有効であろう。また将来増加するであろう必要な財源を確保する上でも,社会保険方式の方が理解を得やすいであろう。社会保険を用いた場合,給付のランク付けに伴う非効率が最大の問題である。できるだけ予防が推進されるシステムにすることが肝要で,それには介護保険の保険者(保険経営者)に,さまざまな予防事業を展開する権限と予算が与えられなくてはならない。また医療保険との統合を視野に入れて制度設計することも重要である。
- 1996-08-25
著者
関連論文
- 田多英範著, 日本社会保障制度成立史論, 光生館, 判型:A5判, 総頁数:254頁, 発行年:2009, 定価3,200円+税
- 公的医療保障制度の財源 : 税による支援と地域医療(会場1 セッション,テーマ別分科会)
- 21世紀の社会保障の課題 : 高齢者介護保障をどう構築するか (藤澤益雄教授退任記念号)
- 新しい世紀にむけての生活経済 : 安心できる「くらし」と地域(共通論題基調報告及び討論記事)
- 就業形態の多様化と個人参加の社会保険 : 医療保険改革のあり方
- 国レベルの政策動向の視点から : 岐路に立つ日本の社会保障(第1部:構造改革の検証と新たな地方の役割,政策・理論フォーラム)
- 医療制度改革と保険者機能--疾病予防活動の取り組み (特集 医療制度改革と疾病予防活動)
- 社会保障の概念 (医療の基本ABC--日本医師会生涯教育・基本的医療課題) -- (社会保障)
- イギリスにおける国民保健サービスの改革 (特集 各国の医療事情)
- 日本の医療保障をめぐる議論とイギリスの国民保険サービス
- 高齢社会の社会保障の課題 : 介護手当制度の必要性を中心に