社会保障と保険原理 (藤澤益雄教授退任記念号)
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概要
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社会保障は第2次大戦後の西欧工業先進における重要な社会的構造物である。その前身は19世紀後半にドイツで始まった社会保険であるが,今日においても多くの国の社会保障において社会保険は中心的な役割を果たしている。社会保険は,賃金労働者の生活を脅かすリスクに対して国が強制的に労働者を社会保険に加入させることで労働者の生活困窮を防ぐ目的としてつくられ,その運営組織は私保険に範をとった。しかし,社会保険が原則として採用したものは,私保険の基本原則となっている給付対反対給付均等原則ではなく所得に応じた応能原則であり,いわゆる所得再分配原則を採用した点で私保険と大きく異なる。一方,労働者保険を中心に発達した社会保険は,多くの場合,単一の企業や同種の職種など連帯意識に訴えることのできるような単位で形成された。しかし,社会保障の発展のなかで企業や職種の枠を取り払って,地域や国といったより大きな単位に拡大されるようになって,社会保険は保険という枠を拡大し,保険原則より福祉原則を取り入れるようになった。その結果,社会保険は,特定の保険集団の運帯にもとづくというより,社会的リスクに対する財源調達組織としての性格を強めている。老人保健制度や国民年金の基礎年金制度はそうした例の一つである。福祉ニーズの増大とそのための財政負担が問題となる高齢化社会へ向けて,公平で効率的な社会保障の再構築は不可避である。本論文において,公平で効率的な社会保障を再構築するために,国民全体の福祉にかかわるものと社会保険の保険的機能にかかわるものを明確にして,社会保障の再構築を図る必要があることを論じている。
- 慶應義塾大学の論文
- 1996-08-25
著者
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